新型コロナで進む子育て世代の“東京離れ”

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複数地域居住の新スタイルも

 新型コロナウイルスの感染拡大で子育て世代を含む20~30代の”東京離れ”が進んでいる。テレワークの普及で、感染リスクの高い都市部から地方への移住のハードルが一気に低くなったためだ。都市部と地方の二地域居住や多地域居住などの新しい「移住」のスタイルも生まれており、企業向けの移住相談に乗り出す会社なども出てきている。(石井孝秀)

仕事の合間には地域の人々との交流や観光を楽しむという西出裕貴さん

仕事の合間には地域の人々との交流や観光を楽しむという西出裕貴さん長野県白馬村、本人提供

 東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)への一極集中是正は、政府が旗を振ってきたものの、一向に改善の兆しが見えなかった。ところが、新型コロナ感染が拡大した7月と8月の2カ月連続で、東京圏から他の道府県への転出が転入を上回る転出超過となった。総務省によると、集計を開始した2013年7月以降初めてである。

 特に20代では、転入が転出を上回る転入超過数が激減し、30代の転出超過数は拡大している。東京都に限定すると、8月では0~4歳の転出超過数は前年度380人に対して、今年度は816人と2倍以上となった。5~9歳では前年度19人に対して今年度は208人と10倍超。子育て世代の“東京離れ”が激しいことがうかがえる。

 妻と共に0歳児を抱え地方移住を考えている、神奈川県在住のプログラマーの30代男性は「首都圏はこれからも感染者が100人前後で推移するだろう。それを踏まえると、子供の安全を考慮して地方移住を検討している」と話す。

 また、コンサルタント企業に勤める埼玉県在住の20代の男性は、以前から京都府の実家の両親と2歳の息子が交流できる場を持たせたいと考えており、「企業側もオンライン面接で対応してくれるところが増え、地方でも仕事が探しやすくなった。私のように、いずれ地元に帰ることを検討していた者にとって、いろいろと移住へのハードルが下がったのではないか」と言う。

 内閣府などは9月25日、テレワークを推進する自治体向けの交付金を2021年度に創設する方針を固めた。こういった施策が、地方移住への動きを後押ししていくことになろう。

 地方に引っ越し、その地に定住する人々がいる一方で、都会と地方の双方に拠点を置く「二地域居住」や、複数の自治体を移動しながら生活する「多地域居住」などの新しい生活スタイルにも関心が寄せられている。

 移住や二地域居住のコンサルティングを行う「デュアルライフ」(山梨県北杜市)では8月、リモートワークを推進する法人向けサービスを発表した。福利厚生などの制度設計の策定から地域・行政との連携、サテライトオフィスの建築支援など、企業の意思決定に必要な材料を提供する。

 同社は企業が地方に拠点・社員を分散させるメリットとして、①優秀な社員の離職防止②自然の中で生活することで社員の健康が向上③人件費コストの抑制④オフィスの面積縮小による経費削減――などを挙げている。

 代表取締役の黒田大さんは「昨今のリモートワーク活性化で、会社を辞めずに移住が可能な人が増えてきた。特に今の20代から30代はとても現実的で合理的。コロナ禍で外出もままならず、東京に住み続ける意義を失ったことも重なり、一気に動き始めた」と印象を述べた。

「働きたい場所で働く」
仕事しつつ楽しむワーケーション

 テレワーク研修などの事業を行う「ニット」(東京都品川区)の西出裕貴さん(29)は、父親が末期がんと診断されたことを機に、全社員フルリモート(全く出社しない働き方)で働ける現在の会社に転職した。

 最初は月の半分を地元の大阪で過ごし、残り半分を東京で生活していた。しかし、今年の2月に「ADDress」というサービスを利用するようになってからは、全国を移動しながら仕事をしつつ観光やプライベートを楽しむ、いわゆる「ワーケーション」を行っている。

 ADDressは、日本各地で運営しているシェアハウスや一軒家などに月定額(電気・水道代など込)で住むことができるサービスだ。利用したい場所・日時から各地の拠点を検索し、空室を確認して予約できる。西出さんは、10月には広島県尾道市など8拠点を回る予定だという。

 「働きたい場所で働けるのは魅力だ。興味のある地域を選び、そこの人々と交流したり、夏に涼しい高原で、鳥のさえずりを聞きながらパソコンで仕事をすることもできる。仕事につながる出会いもあり、仕事と生活がミックスされている状態」と笑顔を浮かべる。

 西出さんのように特定の場所に長期間滞在せず、複数の拠点を移りながら暮らす人は「アドレスホッパー」とも呼ばれている。「間違いなくコロナの影響で、アドレスホッパーとして暮らしやすくなっている。今までこのような生活をしていたのは経営者や専門スキルを持つような人が多かった。最近では普通の会社員や主婦の姿もよく見かける」と西出さんは話す。

 テレワークの推進で、若い世代を中心に“東京離れ”は続きそうだ。一方で、どの程度の広がりを持つか、どのようなスタイルが普及するのか、模索が続くものと思われる。