コロナ禍 デマ情報拡散なぜ?
愉快犯や広告収入狙う発信者
「教えてあげよう」善意で転送
新型コロナウイルスに関するデマ情報や真偽不明の情報が広がり、買い占めや風評被害などのトラブルが全国で相次いでいる。出どころが確認できない情報を受け取った場合は他者に転送しないなど、拡散させない対応が必要だ。(石井孝秀)
不安あおる表現に注意
「必ずたくさん伝達してください」――今年の2月末、武漢療養所に派遣された医師を名乗る人物から記者の元に送られてきたメールだ。情報の拡散を呼び掛けるこのメールは、「武漢ウイルスは耐熱性がなく、56~57度の温度で死にます」と断言。感染予防としてお湯を飲むことを推奨していた。
調べると、出回ったメールにはさまざまなバリエーションが確認された。温度が「26~27度」というものや情報源が自衛隊になっていたものもあった。
デマ情報には感染予防に関わる内容が目立つ。3月末には「安倍総理の緊急会見がもうすぐ行われ、4月1日からロックダウン(都市封鎖)の発表がある」というデマ情報も流れた。LINEで拡散してしまったという都内在住の女性Aさんは、「子供がいるので買い物に行けなくなるのはまずいと思い、みんなにも教えてあげようと情報を流した。知り合いの指摘で分かったが、それまでは信じてしまっていた」と振り返る。
なぜ、デマ情報を流すのか。一つにはアクセス数を稼ぐ目的だ。デマを流しサイトに誘導する。アクセス数が多ければ、サイトの広告収入にもつながる。そうした裏の企みが分からずに、すぐ転送などをして拡散すると第一発信者の術中に嵌(はま)ったことになる。
もう一つは愉快犯だ。ネットの匿名の陰に隠れてデマ情報を流し、反応・反響が大きければ大きいほど強い快感を味わえる。チェーンメールに乗せられ、真偽も確かめず、友人知人に転送されていく様子はネットにすぐ反映するから、それを見てほくそ笑むのである。
こうした手にまんまと引っ掛からないようにするにはどうしたいいか。警視庁は注意すべき情報をホームページ(HP)で解説している。それによると、送られてきた情報がうその場合、文面に「絶対」「非常に」などの強調表現や「大変な」「悪質な」など不安をあおる表現が多いのが特徴。そして、「大至急」と急がせる表現を用いて拡散を促す傾向があるという。
迷惑メールの相談を受け付ける日本データ通信協会(酒井善則理事長、本部・東京都豊島区)の迷惑メール相談センターも、HP上でデマの特徴をまとめている。不安定な社会状況では情報が錯綜(さくそう)し、友人知人から役立ちそうな情報を入手すると、善意の気持ちで広げてしまいやすいと指摘。さらに「(拡散される中で)最初は正しかった情報だったとしても時間の経過により誤った情報になる」可能性も挙げた。
SNSなどで拡散される情報の解析サービスを提供する「Spectee(スペクティ)」(東京都千代田区)の広報担当者は、「情報を複数のソースから確認する習慣を持たない人はデマを拡散してしまいやすい。だが、ネットに詳しくても、世代にかかわらず誰もが引っ掛かる可能性がある」と警告する。
知人がデマを流していることに気付いた際は、「直接その情報を否定すると人間関係の悪化につながる。デマとは別に、公的機関や信頼できるメディアなどが発表した情報を相手に伝える方法もある」とアドバイスする。
公人がデマ拡散に「加担」し、実在する団体に悪影響を与えるケースも出てきた。熊本県の田嶋徹副知事は今月14日、新型コロナウイルスに関するデマ情報を友人らに拡散したとして謝罪した。
拡散されたのは、「日本赤十字社医療センターの医師」を自称する人物からの文章で、「コロナ病床は満床になりました」「近い将来、本来助けられるはずの命が助けられなくなる」などと不安をあおる内容だった。このデマを受け、同センターでは「業務に支障が出ている。当センターが発信したものではない」と呼び掛ける騒動に発展した。
虚偽の情報が蔓延(まんえん)していると、デマと分かっても人々に影響を与えてしまう。トイレットペーパーの買い占めはその中の一つだ。日本トレンドリサーチ(運営会社NEXER)が3月3~4日にかけて約1000人に行った調査によると、トイレットペーパーなどを買い溜(だ)めした人々のうち、紙製品が今後不足するという情報がデマと知っていた割合は9割を超えていた。買い溜めした理由は「実際に店で売っていないから」「本当に必要な時に無いと困る」などだった。
現在、SNS上で「紙製品が不足する」という旨のツイートを見ることはなくなったが、代わりにデマ情報を否定する投稿は無数に出ている。だが、たとえデマ否定の投稿でも、情報に触れた人は不安を感じ、品不足を連想する可能性もある。正しい情報でも伝え方次第では新たなリスクを生み出しかねないことを頭に入れておく必要がある。