『東京物語』の記録写真910枚発見

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小津芸術の秘密語る貴重な資料

 日本映画の巨匠、小津安二郎監督の代表作で世界の映画監督が映画史上の最高傑作と評価する『東京物語』(昭和28年公開、松竹)の撮影時の様子を記録した写真が910枚見つかり、小津監督ゆかりの東京・江東区の古石場文化センターで展示されている。小津芸術の秘密、名画撮影の舞台裏を知る貴重な資料として注目される。(藤橋 進)

ロケハンや撮影風景、子供にも細かく演技指導
東京・江東区で特別展

 写真は大半が約6㌢四方で、分厚いスクラップブック1冊にびっしりと貼り付けられている。大阪市平野区の古書店が発見し、小津映画の愛好家や研究者でつくる「全国小津安二郎ネットワーク」副会長で長野県立大学教授の築山秀夫さん(56)が今年7月入手した。

築山秀夫氏

発見された写真のアルバムを指さす築山秀夫氏=14日、東京・江東区の古石場文化センターの展示コーナー

 発見された写真には、小津監督が脚本家の野田高梧、カメラマンの厚田雄春らと共に東京の銀座や尾道などをロケーションハンティングする場面が収められ、小津流の丁寧なロケハンの様子が分かる。

 また松竹の大船撮影所や尾道での撮影の様子、撮影の合間に撮ったとみられる小津監督と原節子、香川京子さんのスリーショットなどもある。築山さんは「『東京物語』を別の角度で見ることができ、もう一つの『東京物語』と言っていいもの」と語る。

 これらの写真は、松竹のカメラマンが、映画の宣伝や記録のため撮影したものとみられ、当時の映画雑誌に同じものが掲載されたことが築山さんによって確認されている。尾道ロケで小津監督が小学生に演技指導している写真3枚のうちの一つがそれに当たる。他の1枚にランドセルを背負って歩く小学生の演技を小津監督が優しい眼差(まなざ)しで見詰めているものがあるが、雑誌にも載っていない未発表のもの。子供好きで、作品の中で子供たちを生き生きと描いた小津監督が、子供の演技にも細かく指導していたことが分かる。

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尾道ロケで小学生の演技を見詰める小津監督を写した新発見写真。アルバムのものを拡大して展示

 笠智衆と東山千栄子が浴衣姿で熱海の防波堤に並んで腰掛けながら会話する有名なシーンでは、防波堤の海側には二人が落ちないように木の足台が組まれていたことなどが分かる。このほか、小津監督が香川京子さんの半袖ブラウスの袖口を直しているところなど、映像作家としての細心の注意を注ぐ姿が記録されている。

 築山さんは、「今後、他の資料などと照合しながら詳しく調べることで、『東京物語』についての新たな発見ができるでしょう。撮影の時の小津監督やスタッフの立ち位置などから、その独特の演出手法についても解明されると思う」と語る。

 新発見の写真は他のスチル写真、ポスターなど築山さんの小津コレクションと共に特別展「スチル・フォトで甦る小津安二郎展」で来年1月31日まで展示されている。入場無料。

 東京物語 1953年公開の小津安二郎監督、笠智衆、原節子主演の日本映画。上京した年老いた両親とその家族の姿を通し、家族の絆、そのはかなさを「小津調」と呼ばれる独特の画面で表現した。2012年、英国の映画協会が発行する『サイト&サウンド』誌が10年に1度、映画関係者にアンケートして行う映画史上のベストテンの映画監督による投票で第1位に選ばれている。