「災害の日常化」と危機管理力
拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久
検討すべき「防災省」設置
自治体は避難所の再点検を
台風15号の被害の爪痕が癒える間もなく、台風19号が日本列島を襲った。被害の範囲も東海・関東甲信越・東北地方に及んだ。当初、台風19号の進路予想から、首都圏に甚大な被害が出ることが予想されていた。東京都や神奈川県、埼玉県などでも浸水や土砂崩れなどが起きた地域があったが、それ以上に長野県や北関東・東北地方では、目を覆うような惨状が至る所で起きた。
戦前の日本の物理学者である寺田寅彦は「天災は忘れたころにやってくる」という格言を遺し、自然災害への心構えを日本人に説いている。だが毎年、日本列島のどこかで甚大な被害が起きていることを考えれば、「天災は忘れる前にやってくる」の方が、現在の日本が置かれた姿を正確に表しているのではないか。まさに「災害の日常化」と言えるだろう。
著しく異常な激甚災害
政府は台風19号による甚大な被害を受けて、「著しく異常かつ激甚な非常災害」に該当すると判断し、特定非常災害特別措置法に基づく「特定非常災害」に指定した。特定非常災害の指定は、昨年の西日本豪雨や東日本大震災など過去に5件の災害に適用されている。
今回、初めて東京都内でも大雨特別警報が発令された(13都県で発令された)。神奈川県箱根町では48時間の雨量が1000ミリに達した。台風19号がもたらした雨量は2日間で12万5000ミリを記録。71河川(128カ所・7県)で決壊し、氾濫(はんらん)も延べで265河川(16都県)に及ぶ。福島県と宮城県を流れる阿武隈川では41カ所で決壊している。河川の決壊などで浸水した範囲は少なくとも約2万5000ヘクタール。西日本豪雨の際の約1万8500ヘクタールを上回る浸水面積となった。
農林水産関係の被害も過去に類を見ない規模だ。企業の工場や北陸新幹線の車両基地、業務用のトラック・バスなどにも浸水被害が出ており、企業活動にも深刻な影響が出ている。災害廃棄物(災害ゴミ)の量も数百万トンもある。環境省によると、全ての災害廃棄物の処理を完了させるには2年以上かかる可能性があるとしている。12都県の約10万戸超では断水も続く(18日時点)。いまだに被害の全容が把握できない中、行方不明者の捜索が続いている。
自治体が発令する避難情報には「避難準備・高齢者等避難開始」「避難勧告」「避難指示(緊急)」がある。今回、河川の氾濫や土砂災害の恐れから、多くの自治体では気象庁が発表する気象・災害警戒情報(注意報・警報・特別警報)に合わせて、避難情報を発令した。
住民たちは避難情報に基づいて、指定された避難所に避難しようとした。だが、避難所によっては、避難者全員を収容できない事態となり、別の遠い避難所に移動せざるを得ない住民が続出した。
自治体は普段から避難所に全ての住民が避難するだけの広さや設備が確保されていないことを承知の上で、事務的(機械的)に避難情報を出しているに等しい対応ではなかったのか。今回の対応を教訓として、自治体は避難場所の再点検(民間企業とも連携を図り、民間施設も含めた安全な避難所の確保)を行うべきだ。
防災省の創設が叫ばれて久しいが、いまだに実現していない。全国知事会などは政府に対して防災省の創設を提言しているが、安倍晋三政権は消極的な姿勢を取っている。
国土強靭化策とも合致
これだけ災害が多発している事態を考えれば、防災省の創設は国土強靭(きょうじん)化政策とも合致するものであり、防災・危機管理力を高まることにも繋(つな)がるはずだ。
寺田寅彦が昭和9(1934)年11月、雑誌『経済往来』に寄稿した「天災と国防」に次のような記述がある。
「日本は、(中略)気象学的地球物理学的にもきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命のもとにおかれていることを一日も忘れてはならないはずである。日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、もう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる」
最後に、寺田のこの思いを活かすような防災省の創設を、安倍政権には真剣に検討してほしい。
(はまぐち・かずひさ)