ブラジル海岸に大量の原油漂着
観光・希少生物へ影響拡大
ブラジル北東部の海岸に広範囲にわたって原因不明の原油漂着が続き、環境問題になっている。数千人のボランティアや軍関係者らが除去に当たっているが、すでに原油を飲み込んだウミガメの死亡が確認されるなど、NGO関係者からは「世紀の災害だ」との懸念も出ている。
(サンパウロ・綾村 悟)
ベネズエラ産との分析結果も
ブラジル北東部ペルナンブコ州の海岸に流れ着いた原油(重質油)の塊が最初に発見されたのは9月2日。それから約50日で原油の塊は、東北部9州の海岸線約2000㌔にわたって確認されており、61都市200の浜辺が被害を受けている。
今月21日の時点で、すでに600㌧近い原油が回収されているが、漂着原油はその範囲をさらに広げながら東北部の海岸を汚染し続けている。
ブラジルの東北部は、「セアラーの真珠」と呼ばれる漁村、カノア・ケブラーダなど南米でも有数の観光地を抱えており、原油漂着が長期化すれば、観光や地元民の生活にも大きな影響が出かねない。原油が飲料水となる生活河川などに漂着し始めた地域もあり、市民生活への懸念から非常事態宣言を出す州も出始めた。
また原油の一部は、マラニョン州にある自然保護区で、絶滅危惧種の水生生物マナティーが住んでいる海域にも漂着。すでに多くのウミガメやイルカ、海鳥などが原油の塊をのみ込んだことなどで犠牲となっており、希少生物への影響も懸念されている。
ブラジルはつい先日、アマゾン熱帯雨林を広く襲った森林火災で膨大な自然破壊に直面したばかりだが、今回の原油による海岸汚染は、NGO関係者が「完全な除去には年単位の時間がかかりかねない世紀の自然災害だ」と懸念するほどだ。
こうした中、サレス環境相は現地の状況を視察、国軍兵士1500人を現地での除去活動に投入した。また、先週末には、数千人のボランティアが除去作業を手伝ったが、広範囲にわたる作業には、政府が主体となった迅速な行動が必要だとしてグリーンピースなどの環境保護団体は、ブラジル政府に対して圧力をかけていた。
熱帯雨林火災で、対応の遅れに批判を集めていたボルソナロ政権は、21日に国軍出身のモウラン副大統領が、「5000人の国軍兵士を原油除去に投入する」と発表。特別予算も投入されることが決定した。
ブラジル沖を汚染し続けている漂着原油だが、現在もその流出原因を特定できていないのが現状だ。ブラジルのボルソナロ大統領は14日、組織的な犯罪、もしくは国家の関与の可能性もあると説明、暗に隣国のベネズエラから流出した可能性があると指摘した。
ブラジルの国立再生可能天然資源・環境院(IBAMA)の関係者は先週、ブラジルの上院委員会において「漂着原油はベネズエラ産であることに間違いはない」との分析結果を報告した。
ただし、IBAMAは、ベネズエラとの外交問題に発展することを懸念し、「原油流出にベネズエラ政府や企業が関わっているとは限らない」との見解を示している。
一方、ベネズエラ政府は10日、同国石油公社PDVSAのサイトを通じて「ブラジル海岸部の原油汚染は、わが国および石油公社の責任ではない」との声明を出した。
事実、ベネズエラ産の原油を載せた船が、ベネズエラから南方にあるブラジル沖を航行する可能性は低く、原油成分がベネズエラ産に非常に近いという理由で、ベネズエラの関与を疑うことに対しては専門家からも疑念の声が出ている。
ブラジル政府は現在、衛星と航空写真などを利用して漂着原油の流出源を探ろうとしているが、海面を漂う原油の痕跡などを確認できない状態だ。
専門家らは、沖合でタンカー同士が原油を積み替えた際に漏れた可能性が高いとしているが、海底に沈没したタンカーなどから原油が流出している可能性を含めて、ブラジル沖を航行した船舶を調査・照会するなど、原因を追求している。
現状、最優先とされているのは、漂着した原油の除去作業だ。漂着原油は重質油で、水に浮かびにくく洗浄も難しいことが特徴。流出した場合には、回収や汚染した生物の洗浄には特別な技術が要求される。