米中テクノロジー争覇の行方

日本安全保障・危機管理学会上席フェロー 新田 容子

各国に響かぬ米の警鐘
露との連携を模索する中国

新田 容子

日本安全保障・危機管理学会上席フェロー
新田 容子

 ポンペオ米国務長官は、今年2月、中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の機器を通信ネットワークで使用するリスクについて、同機器を採用して情報システムの一部に組み込む国は情報の共有はせず、ビジネスはしない、経済制裁も厭(いと)わないと同盟各国に厳しい警告を発した。

 世界中の首相、政治家、企業CEO(最高経営責任者)たちが注目する中、それを受けてファーウェイは米国の輸出規制の決定は誰の利益にもならず、ファーウェイと取引を行っているアメリカ企業に大きな経済的損害を与える、米国でビジネスを行うことを制限すると「米国は品質が劣る、より高価な代替品との取引をすることになり、結果、米国は5G(次世代通信規格)展開に遅れを取り、最終的には米国の企業と消費者の利益を損ねるものだ」と述べた。中国がより優れたビジネス戦略、構想を持ち合わせているかのような冷静な反応だ。トランプ米大統領の手法が分かりかけてきた中国はトランプ再選を願うとの声も聞かれる。

 ファーウェイが実質、中国共産党政権とつながっており、人民解放軍から資金を供与されているため、米国にとって国家安全保障上、軍、インテリジェンス機関にとって脅威だとする米国のレトリックはごもっともだ。

難しい独自OSの開発

 ファーウェイは2018年度は前年比45%増収、日本円にしておよそ5兆6720億円の消費者向けビジネス市場規模にまで拡大し、19年上半期は23%増収、世界各国で50もの商事契約を結び、超高速ネットワーク運営に10万もの基地局を送る予定だ。その大半は欧州、ついで中東、アジア太平洋、南米とアフリカだ。

 現実、米国のファーウェイ潰(つぶ)しに賛同する国は驚くほど限られている。わが国、オーストラリアだけだ。最も深いインテリジェンス関係にある英国は別のアプローチを取る。決めかねるインドは制裁を課すと中国から脅されている。他国は中国マネーになびいている。米国がこれだけ安全保障上の警鐘を鳴らしても各国が響かないのは、東西冷戦後なかった構図ではなかろうか。論点の安全保障がかえってスノーデン氏の告発での発覚に立ち返らせ、各国の不信感を強め、見極めが必要だという心理も働いている。

 米国政府のファーウェイ潰しは、ファーウェイの自社のアップストアをインストールすることに繋(つな)がり、その結果、多くの大手のアプリケーション・プロバイダーはそのファーウェイのアップストアに配布することになるだろう。グローバル・サプライチェーンの広がりで、プロバイダーの国籍ベースの締め出しは現実的には難しい。

 米製品輸出禁止対象企業一覧「エンティティーリスト」に載った結果、アンドロイド向けのグーグルサービスも利用できず、アンドロイド・アップデートへの将来のアクセスをブロックし、英国のチップ設計担当のARM社はファーウェイとの全ての活動を停止する。現実的には他への置き換えは信じられないほど困難で費用がかかる。ファーウェイの携帯電話の将来にさらに疑問を投げ掛ける恐れがある。

 ロシアは、24年までに全ての主要都市で5Gを展開する予定だ。ロシアにとって資源、宇宙が覇権を狙う分野だけではない。この6月に習近平中国国家主席の訪露の際、ファーウェイはロシアの携帯最大手企業のMTSと提携した。ロシアの「オーロラOS」が中国にとって「短期的なソリューション」になった場合、オーロラはファーウェイ独自のOSの開発における「踏み台」になる可能性がある。実際、20年の夏までにロシアの来年度の国勢調査実施を目的としてファーウェイのタブレット36万台にロシアのOSを採用する。加えて、ロシアの検索エンジンのヤンデックスをファーウェイのスマートフォンのグーグルサービスの代替えとしてプレインストールする交渉も再開する動きだ。

本質的に同じ側の中露

 一方、ロシアの情報通信監督当局はこのたびファーウェイを含む3社を個人情報保護法違反で摘発、自国の法の強化に乗り出した。中国とロシアはアメリカ主導の世界秩序を覆すことに取り付かれている。歴史から学ぶべきは両国は地政学的な長い間のライバルであり、目標が達成され、新しい局面が出来、循環として対立する関係が戻ることを示しているものであり、ロシア側がデータローカライゼーションにおいて優位に立とうとする思惑も見て取れる。しかし今は、ロシアと中国は本質的に同じ側にいる。ロシアは十分に認識している。

(にった・ようこ)