不正疑惑の曺韓国法相 「ポスト文在寅」の呼び声
家族の不正疑惑で物議を醸している韓国の曺国法相に次期大統領候補の呼び声が掛かり始めた。2022年の大統領選を念頭にした世論調査に曺氏が名前を連ね、文在寅大統領はご意見番の左派系神父と曺国氏を次期大統領に推すことで約束を交わしたのではないかとの見方も浮上。文政権が「曺法相擁護」の姿勢を崩さない背景にはこうした政治的思惑が絡んでいる可能性が出てきた。
(ソウル・上田勇実)
文氏、左派系神父と約束か
有力大統領候補に名前も
世論調査大手の韓国ギャラップが今月初めに実施した調査によると、22年次期大統領選の候補の支持率で曺氏は5%を記録し6位だった。選挙までまだ2年以上残すとはいえ、曺氏が主要候補として名前を連ねるのは初めてだ。
さらに注目されるのは曺氏を「ポスト文在寅」に擁立する動きが見られることだ。
7月末に文大統領が家族と一緒に休暇で南部・済州島を訪れた際、ある人物と密かに会って重要懸案について話し合ったのではないかという観測が韓国メディアを中心に流れた。ある人物とは文氏が長年にわたり精神的支柱として慕ってきた韓国ローマ・カトリック教会の宋基寅神父だ。
韓国政府系シンクタンクの関係者によると、その話し合いの核心部分は文氏と宋氏の間で青瓦台(大統領府)民情首席秘書官だった曺氏を法相に任命して検察改革を進め、ゆくゆくは文氏の意向を最も汲(く)む次期大統領候補に擁立する約束が交わされたというものだという。
文氏は8月、曺氏を次期法相に指名。その後、娘の大学不正入学疑惑など数々の疑惑が浮上する中、文氏は曺法相任命を強行した。曺法相辞任を求める世論が高まり、妻の聴取や弟の逮捕状請求など現在も検察による捜査が進行中だが、文政権による曺法相擁護の姿勢は頑として変わらない。
これまでなぜ文氏は曺氏をかばい続けるのかという疑問がくすぶり続けてきた。「曺氏を到底捨てることができない、国民が知らない何かしらの事情がある」(元韓国政府高官)という漠然とした臆測だけが乱舞していた。仮に文氏と宋氏との間でこうした約束があったとすれば疑問はある程度解消されることになる。
文氏と宋氏との交流は長い。文氏は1980年の司法試験に続き、82年の司法修習も次席で合格したが、軍事独裁に反対するデモに参加した経歴などが問題視され職に就けずにいた。宋氏が5月に韓国誌と行ったインタビューによれば、行き場を失っていた文氏を当時弁護士事務所を開いたばかりだった盧武鉉元大統領に紹介したのが宋氏だったという。
それ以降、宋氏は学生や労働者など人権絡みの事件を2人に任せ、3人は親交を深めた。82年に起きた左翼過激派による釜山米国文化院放火事件では、宋氏が被疑者の学生たちの後見人を務め、弁護士を盧氏が引き受けた。
文氏は前々回の大統領選で落選した際、夫人同伴で済州島にある宋氏の自宅を訪れ、「悩みを整理し政局構想を練った」(韓国通信社)という。
05年、宋氏は盧政権下で設立された「真実・和解のための過去史整理委員会」の初代委員長に就任。上記インタビューでは歴史清算について「わが国が過去史を清算しなければ正しく次の段階に発展できないと普段から主張してきた」と述べている。過度な反日路線を続ける文政権、その急先鋒に立ってきた曺法相が宋氏の考え方に影響を受けた可能性は十分ある。
文政権は、今月16日が1979年の朴正煕大統領暗殺事件の引き金になったとされる反独裁デモの釜馬民主抗争から40年の節目になることから、この日を初めて国家記念日に指定し、政府主催による記念行事を行う予定だ。
これは文政権にとって保守派叩きの手段として進める「積弊清算」の一環だが、宋氏は以前からこの事件の記念事業に関わり、昨年発足した釜馬民主抗争記念財団でも理事長を務める。
文政権の政策も「反日」や「積弊清算」などガチガチの価値観に基づいている。宋氏の影響力の大きさをうかがい知ることができる。