「日中新時代」とは何か

平成国際大学教授 浅野 和生

人権弾圧を強める中国
「正常な軌道」回復とは言えず

浅野 和生

平成国際大学教授 浅野 和生

 大阪の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前にした6月27日、安倍首相が中国の習近平国家主席と会談し、「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」「次の高みに引き上げていきたい」と述べると、習主席は「中日関係は、新しい歴史的なスタートラインに立っている」と応じた。日本政府は、来年の桜の咲くころに、習主席を国賓として迎えるという。

 その1週間前の21日、ポンペオ米国務長官が世界の宗教的自由に関する報告書を公表した。アメリカでは、「国際宗教的自由法(IRFA)」に基づいて、超党派の政府諮問機関である「国際宗教的自由委員会」(USCIRF)が大統領、国務長官および議会に年次報告書を提出する。その2019年版は、中国の宗教政策を厳しく批判するものとなった。

全宗教に「忠誠」を要求

 IRFA制定当時の1999年1月には、宗教的自由が懸念される国家はロシア、スーダン、中国の3国であった。2000年の報告書は、中国のウイグル族イスラム教徒は、ただ信仰を持っているというだけで、恣意(しい)的な逮捕や拷問の対象となり、法廷手続き外の死刑が行われているとし、「宗教その他の人権が抑圧されている」と述べた。10年後、10年のUSCIRF報告書は、新疆ウイグル自治区では宗教弾圧への抗議行動の結果、およそ200人のイスラム教徒が殺害され、1600人が負傷したと伝えた。

 そして今、新疆のイスラム教徒たちは、常に監視カメラにさらされ、携帯電話は没収されるか盗聴され、肌を傷つけてDNAを採取され、子供たちはモスクへ通うことを禁じられている。さらにウイグル族の男性80万人もしくは200万人ほどが収容所に入れられ、このため子供たちは孤児になり、家族がお互いの居場所を知ることもできない状況にある。

 中国共産党は、これらの収容所は、テロとの戦いのために設けたとか、職業訓練のためだと説明している。しかし実は、信仰のために髭(ひげ)を伸ばしたこと、ベールを着用したこと、宗教関係のサイトにアクセスしたことだけで、「不法な」宗教活動と認定し、「過激派」として自由が剥奪されるのである。そして不衛生な施設にすし詰めにされ、過酷な取り扱いを受けつつ、イスラム教を放棄して中国共産党に忠誠を誓うよう要求されている。また、昨年10月11日の米議会中国特別委員会のリポートによれば、上述のウイグル族の他に、中国には1422人の良心の囚人がいるという。

 さらに中国共産党は、18年から各宗教の「中国化」を打ち出した。この年の4月、習主席は「宗教信者は、国家の最高の利益に奉仕しなければならない」とし「積極的に社会主義の核心的価値を実践するよう」に求めた。これに応じて、中国政府に従属している中国キリスト教協会と中国イスラム委員会は「キリスト教の中国化」および「イスラム教の中国化」の5カ年計画を発表した。

 実は、中国政府が中国の「伝統文化」の一部と認めてきた大乗仏教や道教も、その宗教活動が厳しく抑圧され、仏教や道教の寺院も、地方政府によって大量に閉鎖され、仏像や銅像が破壊されている。つまり、中国共産党の要求は、「宗教の中国化」ではなく、全ての宗教の「中国共産党への忠誠」である。当然、法輪功やその他「邪教」と指定された宗教は、躊躇(ちゅうちょ)なく弾圧されている。さらに米人権団体フリーダムハウスによると、チベットの宗教、人権情勢は、シリアほどではないが北朝鮮より悪い、つまりほぼ世界最悪の状態にある。

真の友好のため行動を

 このように人権弾圧がますます悪化している中国政府との関係を、日本が「さらなる高み」へ引き上げるとはどういうことか。中国の人権状況に厳しい注文を付けずに友好関係を発展させることは、中国の人権弾圧を事実上、容認することになる。

 安倍内閣が中国に、人類の普遍的な価値である「基本的人権」「信教の自由」の尊重を強く呼び掛け、その方向に向かうのでなければ、日本と中国の2国間関係が「正常な軌道」に乗っているとは言えないのではないか。真の日中友好のために日本は、隣国中国の抑圧されている宗教者、一般信者のために声を上げ、行動すべきなのである。

(あさの・かずお)