イランのウラン濃縮めぐる脅迫戦術

核保有への懐疑深まる

 イランは7月1日、低濃縮ウラン貯蔵量が核合意で定められた上限を超過したと発表、7日には、3・67%以下と規定されたウラン濃縮度の上限を無視して4・5%まで引き上げ、核合意破りの第1弾、第2弾を断行した。さらにイランのアラグチ外務次官は7日、欧州からの経済支援が不十分な場合、60日ごとに新たな核合意履行停止措置を取ると警告した。イランによる核合意の形骸化と核兵器開発への懸念が増大している。(カイロ・鈴木眞吉)

シーア派革命体質を維持

 イランが合意破りに踏み切った理由は、米国が、イランと主要6カ国とが2015年に結んだ核合意では、イランの核兵器開発を破棄させられないと判断、合意から離脱して経済制裁を再開、イランが経済的苦境に陥ったためだ。イランは、核合意で得られるはずの経済的利益を、欧州諸国が保証するなら、核合意を維持するとしたものの、欧州諸国は米国からの経済制裁下で取り得る方策は限られ、新たに「貿易取引支援機関(INSTEX)を設けて支援を模索したものの、イランは満足していない。一連の合意違反は、英独仏に対する、半ば脅迫だ。

アラグチ外務次官(右)

7日、テヘランで記者会見するイランのアラグチ外務次官(右)ら(EPA時事)

 しかし、脅迫ならまだしも、核兵器開発が現実化した場合、英独仏も米国と歩調を合わせ、厳しく対応することは目に見えている。トランプ米大統領は「火遊びするな。自分に跳ね返ってくる」と追加制裁を警告した。マクロン仏大統領は6日、ロウハニ・イラン大統領と電話会談し、7月15日までの対話再開の条件を検討することで合意したが成否は不明。

 イランは今、核兵器開発を完全断念して繁栄を手に入れるか、核兵器にこだわり、国民を巻き込んで転落するか、二者択一を迫られている。

 顧みれば、現在のイランは“普通の国”からかなり離れた“特殊な国”だ。もちろん自由で民主的な国でもない。端的に言えば「イスラム教シーア派革命により誕生した国」で、その革命成果を守るための軍隊「革命防衛隊」を持ち、革命を全世界に輸出する先兵として、シーア派系武装組織(レバノンの「ヒズボラ」やイエメンの「フーシ派」)やパレスチナ・ガザ地区の「ハマス」などを抱え、体制の中枢にシーア派法学者が座る宗教国家」である。

 つまり、革命の実であるシーア派体制に最高の価値を置き、体制維持と拡大(輸出)を聖戦として位置付け、命を捨ててでも(殉教思想―自爆テロに通ずる)守り抜くべきだとする特殊な宗教国家である。革命輸出姿勢がテロ支援国家にもさせている。

 さらにイランはイスラエルを地図上から抹殺すると宣言、イスラエルはイランの核保有にどこよりも敏感だ。ネタニヤフ・イスラエル首相は7日、一連の核合意破りを「非常に危険な一歩だ」と批判、英独仏に対し、対イラン制裁強化に踏み切るよう求めた。

 イランとの宗派抗争を繰り広げるサウジアラビアは、イランが核兵器保有に踏み切れば直ちに獲得に動くと宣言しており、中東全域に核を拡散させかねない危険性をはらんでいる。

 宗教は概して多くの長所を持ちながらも、固執すれば、独断・偏見に陥り、他宗教・宗派との間で凄絶(せいぜつ)な戦いを展開してきたことは歴史の事実。現在も同様だ。

 国際社会はイランに同情し一時的に手を差し伸べるのではなく、普通の国家にすべく、米国との再対話に導き、核兵器を持てないよう、制度的な確立を急ぐべきだ。