民間防衛は世界の常識
拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久
協力は任意の国民保護法
「義務的任務」盛り込み検討を
民間防衛は、積極防空(軍防空)に対し、消極防空(民間防空)ともいわれ、次のように定義されている。
「敵の武力攻撃に対して国民の生命・財産を守り、公共の建物・設備、産業、文化財等を防護し、速やかな救助・復旧を図ることを主目的する組織的、非軍事的活動をいい、あわせて、平時における自然災害、または人為的災害に対しても備えるものであり、中央政府の計画・指導と、それに基づく地方自治体の組織、指導のもとに軍隊以外の民間人(シビリアン)が主体となって行うものである」(山田康夫著『民間防衛体制』〈教育社〉)
戦争や災害に備え対策
つまり、民間防衛は、戦争災害に備える民間人の防護活動を意味するが、通常爆弾や焼夷弾による爆撃のみであった第2次世界大戦までと、核兵器等の発達した大戦後では、組織や対策が大幅に変わった。現在の諸外国における民間防衛策は、核兵器に対する防護に加えて、生物・化学兵器、サイバー攻撃、世論工作など、あらゆる手段の攻撃に対し、被害を最小限に食い止める対策が講じられている。
戦争以外の諸災害に対しても、広範な施策を含めており、中央政府(多くの国では内務省が主務官庁)の計画、立案、指導と、それに基づく地方自治体の組織や指導の下に、主として軍以外の民間組織がこれに当たる活動とされている。警察や消防がそれぞれの任務を持って支援するのは当然として、軍隊も通信、輸送、機械力などを持って支援活動をするほか、法律によって民間防衛活動に専従する民間防衛隊を義務制または志願制、あるいはその両建てによって設けている国もある。
欧米諸国の多くが軍事防衛、経済防衛、心理防衛、民間防衛の四つが完備されて初めて国の総合的防衛が達成されるとしている。これらは相互に関連しており、国の全ての組織が協力して統一的運用がなされなければならないとの観点から、大統領や首相を長とする国家安全保障会議や国防会議などで、基本方針の策定が行われている。
日本で民間防衛の議論が始まったのは、米ソ冷戦構造の最中、核爆発の災害から国民の生命・財産を守るため、市民防衛に関する調査研究を行い、市民運動を展開するとともに、市民防衛に関する国家施策実現の推進を図る目的で、昭和52(1977)年12月に「日本市民防衛協会」が設立された時だ。この団体は、政界、財界、労働界、教育界等にPRを行い、海外資料の調査、収集、研究会の実施、会報発行、国会および政府への意見具申を行い、「万一、敵の攻撃を受けた場合、日本は専守防衛を旨としている以上、本土での戦闘が避けられず、地域住民の防護、避難誘導が適切になされなければならない」として、民間防衛の必要性を訴えた。
その後、日本では民間防衛についての議論は下火となったが、北朝鮮の核開発疑惑、ミサイル発射実験などを受け、国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)が平成16(2004)年9月17日に施行された。
法律の内容周知徹底を
この法律は、武力攻撃事態等において、武力攻撃から国民の生命・身体・財産を保護するため、国や地方公共団体等の責務、住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置およびその他の国民保護措置等に関し必要な事項を定めている。また、武力攻撃事態等に備えて、あらかじめ政府が定める国民の保護に関する基本指針、地方公共団体が作成する国民保護計画および同計画を審議する国民保護協議会ならびに指定公共機関および指定地方公共機関が作成する国民保護業務計画などについても、この法律において規定されている。
だが、現在の国民保護法は、避難や救援については国民に協力を要請するだけで、応じるかどうかは任意となっている。政府は国民保護法に義務的任務を盛り込むことを真剣に検討すべきであり、同時に法律の内容を国民に周知徹底すべきだ。
(はまぐち・かずひさ)