「仕事熱心」をやめた日本人
弁護士 秋山 昭八
上司や年齢構成に原因
職場活性化が喫緊の課題に
「日本人は仕事熱心」という思いは常識であった。ところが、米調査会社のギャラップ社が2017年公表した、仕事への熱意についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意を持って積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体の6%で、調査した139カ国の中で132位と、最下位級にとどまったことが分かった。
与えられた仕事を指示通りにこなす受け身の勤勉性はそれなりに高いものの、自ら主体的に仕事に取り組む姿勢に欠ける状況は非常に心配される。働き手の熱意の低い職場から目の覚めるようなイノベーションが生まれないのは自明である。企業業績と社員の熱心さの間には強い相関関係があることも知られている。日本企業の収益力が低い一因は、社員の熱意不足であるといわれる。
世界中で世論調査を展開している米ギャラップ社は、数年置きに各国で社員の「やる気」を調査して発表している。「State of The Global Workplace」というそのリポートが最後に発表されたのは、13年のことだった。17年に入り数年ぶりに調査が行われ、来日した同社のジム・クリフトン会長兼最高経営責在者(CEO)がそのさわりを披露した。同氏によると、日本の企業戦士の「やる気」はすごく低調だ、ということである。
「日本は『熱意あふれる社員』の割合が6%しかいないことが分かった。米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139ヵ国中132位と最下位クラスだった」。さらに、「企業内に諸問題を生む『周囲に不満をまき散らしている無気力な社員』の割合は24%、『(単純に)やる気のない社員』は70%に達した」と、ネガティブ社員の割合の多さも指摘している。(17年5月26日付日本経済新聞より)
主な原因は上司にある。上司の言ったことを、口答えせずに確実にやれば成功するというのが従来のやり方だった。このマインドセットを変えないといけない。上司と部下が一緒になってどう結果を出すか、部下をどうやって成長させていくかを考えることが上司の仕事になる。
やる気のない社員大国、それが日本だとのテーマのもと、日本の社員の「やる気」は同調査による国際比較で目を覆いたくなるものだ。13年調査から抜粋しても、「やる気のある社員」の割合は世界平均で13%だったのに、日本はその半分以下だった。ちなみに米国のそれは30%で世界3位だったが、1位はパナマ(37%)、2位はコスタリカ(33%)だった。アメリカでも「やる気」改善が起こってきたのは15年前だったといい、前世紀では日本の「やる気係数」も高かっただろうという見方も示している。
仕事の「やらされ感」が強まれば、不祥事や労働災害も起こりやすくなる。政府が旗を振る生産性革命も、個々人が旧態依然の仕事ぶりを改め、新たな働き方に挑戦しようとしなければ、絵に描いた餅に終わる。各人の熱意を引き出し職場を活性化することは、各企業にとっても日本全体にとっても待ったなしの課題である。
かつて旺盛だった「仕事熱心さ」が後退した理由の一つは、人員の年齢構成のいびつさである。若い人が新しいアイデアを出しても、職場で多数派を占めることの多い中高年層が抵抗し、はね返される。そんなことが繰り返されれば、あきらめムードが広がり誰も何も言わなくなる。
一昨年、経済産業省があえて若手官僚ばかりのチームをつくり、大胆な提言を発表して話題を呼んだ。企業もトップの肝煎りで、若手を思い切って登用するといった、年功序列の延長線上にはない試みを積極的に仕掛けるべきである。外部人材の導入も組織の刺激剤になる。パナソニックは外資系IT企業の元幹部を要職にスカウトし、官僚的な社内風土に風穴を開けようとしている。
派手な取り組みだけでなく、地道なことの積み上げも大切である。直属の上司とのコミュニケーションの多い職場ほど、若手の熱意が高いという結果も出ている。どんな人間を管理職に起用すれば職場が活気づくのか。経営者や事業責任者は十分な目配りをしてほしい。それこそが企業の盛衰を決めるカギと言える。
景気回復をにらみ企業が採用を拡大する中、若手だけでなく、中高年の転職が増えてきた。業容を拡大している中堅・中小企業を中心に、経験豊富な管理職などを外部から登用し、迅速な新規事業の立ち上げや海外展開に生かしている。従来は35歳を目安に、それ以上の年齢の転職は難しい面もあったが、少しずつ変わり始めている。
総務省の労働力調査によると14年の転職者は290万人で4年連続で増加した。この間の増加幅は7万人だった。25~34歳は労働力人口の減少もあり7万人減って75万人だった。一方で35~44歳が5万人増え67万人、45~54歳も3万人増え41万人となった。
人材紹介大手のJACリクルートメントによると、40~50代の求人は増加が続き、外資だけでなく国内企業も管理職採用に積極的で、ヘッドハンティングを手掛けるプロフェッショナルバンクでは「実務経験が豊富な現揚のリーダークラスのニーズが高まっている」という。
(あきやま・しょうはち)






