頑張れ国産ジェットエンジン

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

「F9」の早期実用化を
防衛技術の確実な成長期待

 先日、防衛省航空技術関係者と懇談の折、防衛省・石川島播磨重工(以降IHI)で鋭意開発中の「XF9」エンジンが地上試験で、当面の目標値を上回る推力に達したことを告げられた。実に結構なことと喜んでいる。前回本欄で、中国の戦闘機開発に関連し、中国産エンジンの性能不良に苦戦し、空母建設にまで影響しているのではないかと推察されている状況を披露したが、今回は我が国のジェットエンジン開発の状況を紹介し、その重要性を訴えたい。

 まず戦闘機の性能であるが、その大部分は、エンジン性能が負う。速度・機動性・搭載武装・航続距離等、一に係ってエンジン能力がキーである。特に最新鋭機は第5世代機と呼ばれ、ステルス性が求められる。ステルス性の最たるものは、従来機外に露出装備していたミサイル等を機内装備することから、必然的に機体の大型化が顕著である。またもう一つの特徴は高速巡航(アフターバーナーを使わず超音速巡航)が求められ、大出力エンジンが何としても必要なのである。従って米露をはじめとする列強の高性能エンジンの開発をめぐる競争は熾烈(しれつ)を極めていると言ってよい。

 最近の代表的なエンジンは、米国F15およびF16に搭載されたF100エンジン(IHIによりライセンス生産)およびロシアSU27に搭載されたAL31Fで、いずれもサイズ1・2メートル×5メートル、推力12トンクラスで時代を画するものであった。現在、米国を代表するF22、F35はF119、F135エンジンをそれぞれ搭載しており、両エンジンは最大推力19トンに及ぶ。ロシアも第5世代機「SU57」に搭載するAL41を開発、最大出力18トンと推察されている。

 他方、我が国のジェットエンジン技術は、戦後10年のブランクを経て、T33用「J33」、F86用「J47」、F104・F4用「J79」そして前述の「F100」というその時代をリードした先端エンジンのライセンス生産をIHIが主体となって行ってきた。この間、実に65年間、高い生産技術を涵養(かんよう)してきたと言える。ライセンス生産したエンジンの種類は戦闘機用にとどまらず、大型機(哨戒機、輸送機)、ヘリに及んでおり、高品質のエンジン生産国としての地位を確かなものとしてきた。

 ライセンス生産による高い製造力に比し、独自エンジンの開発の面は、遅々たるものであった。1956年、防衛庁と契約した「J3」エンジンが不調で、国産エンジンは出足から停滞する。そして82年、航空自衛隊のT4ジェット練習機(T33後継)の開発に伴い、ライバルを退け、「F3」エンジンが採用されることとなり、エンジン開発に転機が訪れる。F3―300エンジンは推力1・7トンの小型エンジンであるが、確たる基礎研究、高い製造能力と相俟(ま)って所望の成果を発揮する。

 次いで90年代に開発されたのがXF5実証用エンジンで、小型、推力5トン(2基併用計10トン)クラス、高機動対応、パドル方式の推力偏向等の能力を実証するのが目的であった。本エンジンは同じくステルス技術実証機X2(通称・心神)に搭載され、一昨年、実飛行を行っている。しかし時代はステルス機という大型戦闘機の時代に入っており、実用エンジンとしては推力15トン以上の本格エンジンの開発が強く望まれる情勢に至る。

 そこで登場したのが「F9」である。2010年から試作が始まったこのエンジンは、ライセンス生産で培った高い工作能力と、超合金・耐熱繊維材料といった我が国の強みを基に、列国のエンジンより一サイズ小さな口径でまとめられている。昨年6月IHIにより本体コア、次いで本年6月プロトタイプエンジンが完成、防衛装備庁に納入され、テスト中のところ、当初の目標値(15トン)を上回る推力を発揮しているということである。早期実用化とともに、さらなる改修改良により、発展型への飛躍を期待するものである。

 一般に新エンジンの開発は、新戦闘機の開発との関連が顕著である。今回のF9開発は、当然、F2後継機の開発を睨(にら)んでいる。F2後継機は情報収集が始まっているが、30年ころにはF2の退役が始まることから、既に方針を定めるべき時期が来ている。国産、国際共同開発、輸入といった選択肢の中で、F9の成功は大きな影響を与えるであろう。思えば35年前FSX(F2)選定に当たり、空自・航空工業界が望んだ国産機が、自前のエンジンがないために、F16を母体とした米国との協同開発との形になった。

 しかしF2共同開発の目玉であった一次構造部材から全翼をファイバーとした世界最初の試みは成功し、その後、ファイバー構造・工作に関する我が国の地位を揺るがぬものにした。ボーイング社の主力機B787の主翼は全て三菱重工製でスタートしたように、国産開発への投資、技術的苦労は大変なものであるが、我が国の工業生産国としての今後の発展を期するためにも、ぜひ国産技術開発という苦労を甘受したいものである。これは単に新戦闘機の問題にとどまらず、国産技術の育成という代え難い成果を求めていくことなのである。本年末には「新防衛計画の大綱」をはじめ、中国の異常な軍拡に対応する基本的方針が定まる。この重要な節目の時期、防衛技術の確実な成長という面も、重視してほしいと願う次第である。「頑張れ、F9!!」

(すぎやま・しげる)