当事者は条例に否定的

波紋呼ぶLGBT請願(上)

東京都港区アンケート 7割「特に困ったことない」

 今年初めに発足した「自治体にパートナーシップ制度を求める会」は5月から6月にかけて、全国27自治体に一斉に、性的少数者の権利保護を求める請願書を提出した。世話人の鈴木賢・明治大学教授は、これを「パートナーシップ制度夏の陣」と位置付けて秋の陣、冬の陣と継続させ、「より多くの自治体を巻き込み、パートナーシップ制度を全国へと拡大させていくよう、取り組む」と宣言している。その動きが日本社会に与える影響について考えてみた。(LGBT問題取材班)

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岩本江美さんが意見陳述する総務委員会。パートナーの女性も同席した=「長野市議会議員布目ゆきおの徒然日記」より

 「LGBT(性的少数者)の当事者は人生の各段階でさまざまな問題に直面します。…将来を思い描くこともできないまま、孤独で鬱病(うつびょう)や自殺願望を抱えている若者たちがいます。勇気を出して親にカミングアウトをしたら勘当され、実家から追い出される人たち、または無理矢理異性との結婚を強いられる人たちがいます…」

 今年9月18日の長野市議会総務委員会。「LGBTなど性の多様性を認め尊重する人権施策の実施に関する請願」を提出した長野市在住の岩本江美さん(26)は市議に切々と語った。岩本さんは性的少数者らと交流する「おはなしカフェ」を企画したり、マスコミの取材に実名で登場したりするなど積極的に行動している。

 スピーチの後半で岩本さんは、地方都市がLGBTに理解を示さなければ、LGBTの若者は理解が進んでいる大都市へ移動していくと指摘。市の適切な施策が「若者の流出の軽減と自治体の活性化にもつながると信じています」と訴えた。議員全員が賛成して請願は採択された。

 請願の紹介議員となった布目ゆきお市議(社民党)は自身のブログで「目指すは、長野市においても『同性カップルを含むパートナーシップ認証制度』を実施し、セクシュアルマイノリティにとっての様々な社会的な障壁の除去に向け、応援していく仕組みをつくりあげること」と決意表明している。

 長野県内では今年に入って松本市、伊那市、長野市の各議会で同様の請願が採択された。請願が出された自治体では条例や制度の制定に踏み出す所もあるだろう。メディアがこうした動きを大きく報じるため、性的少数者の人たちはみな条例を望んでいると思われがちだ。だが、当事者の気持ちは違う。

 東京都港区が今年2月から3月にかけて23区内で実施した「性的マイノリティへのアンケート調査」(回収数400件)。「居住している自治体で『パートナーシップ宣誓制度』があれば宣誓したいか?」との問いに、「宣誓したいと思う」34%に対して、「宣誓したいとは思わない」が66%。その理由を聞くと、「そっとしておいてほしい」32・1%、「特段、メリットはないと思う」29・5%、「宣誓し認めてもらう事柄ではない」24・4%、「かえって偏見・差別にさらされる」23・1%など(複数回答)、「パートナーシップ制度」には極めて消極的であることが浮き彫りになっている。

 「地域で暮らすうえでセクシュアリティに由来して困ったこと」(複数回答可)との設問には、「特にない」が69・5%。「求職・就労時にセクシュアリティに由来して困ったこと(複数回答可)」との設問には、「特にない」が73・5%。これらの数字からは、LGBTであるが故に特別「生きづらい」状況は見えてこない。