狙いは同性婚の容認

波紋呼ぶLGBT請願(下)

危機感薄い地方、懸念の陳情も

 LGBT(性的少数者)の権利擁護をうたった「パートナーシップ制度」は2015年に導入した東京都渋谷区を皮切りに、世田谷区、伊賀市、宝塚市、那覇市、札幌市、福岡市、大阪市、中野区が導入。千葉市なども来年度から導入予定だ。この流れを後押しするため今年2月、「自治体にパートナーシップ制度を求める会」が発足した。

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LGBTに関する陳情を審議する大和市議会の文教市民経済常任委員会=11月29日午前、神奈川県大和市下鶴間の大和市役所(石井孝秀撮影)

 会の世話人である鈴木賢・明治大学教授(北海道大学名誉教授)は、札幌市の条例制定に動いた人物だ。

 鈴木教授は昨年3月20日、北海道新聞主催の講演会で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、…」と定めた憲法24条は、「同性婚禁止」あるいは「同性婚を認めるには24条の改正が必要」と解釈するのは間違っていると発言。「24条は同性婚を否定しているのではなく、想定していないと考えるのが妥当」と述べている。さらに「パートナーシップ制は同性婚への第一歩であると思っている」と運動のゴールは条例制定でなく同性婚であると明言した。

 今年10月までに首都圏を中心に出された30件を超える請願・陳情の8割近くが採択されている。埼玉県春日部市ではこうした流れに強い危機感を持った井上英治市議が9月、質問に立った。

 「我が国の法体系は、男女の法律上の婚姻を優遇し保護しています。一方で、夫婦には同居、協力、扶養義務を課し不貞行為を禁止しています。これは、男女の婚姻のみが、国民国家を、日本民族を、子孫を残す手段だからです。男女間の異性愛は、性的指向よりも優位性を持っているのです。持つべきなのです。人権尊重も国家があってこその人権です。国家を構成する国民。その国民を次世代につなぐのは夫婦。だからこそ男女の婚姻、男女間の異性愛のみが、性的指向よりも優位性を持っているのです。…その点の理解不足が有ると議論は噛(か)み合いません。渋谷区条例は異性愛、同性愛、両性愛、無性愛などの性的指向を同列に扱っているので婚姻制度崩壊の危機感を感じさせます」

 こう前置きして、同市で大人、子供のLGBT関連での悩み相談件数とその内容について質問。そのような差別件数はない、との答弁を引き出した井上氏は「春日部市では架空の議論というわけですね」。次に、条例推進派が問題であると指摘している病室での付き添い・看護など、「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」 (LGBT 法連合会)が問題としている9分野264項目についても、新たな制度を設けずとも公正証書でほとんど対応可能である、と市側が回答。

 さらに、政府が平成16年7月「性同一性障害特例法」を制定し、希望すれば戸籍上の性別記載変更が可能となっていることや、性差別に対して政府が相談窓口や対策を講じている事例をもとに、井上市議は「LGBT条例制定は必要なく、これに反対する」旨を告げた。だが、地方議会でこうした強い危機意識を持って行動している議員は極めて希(まれ)だ。

 しかし注目すべき動きもある。神奈川県大和市では11月29日、「パートナーシップ制度」の導入に向けた協議を求める陳情と、LGBTに関する施策を慎重に進めることを求める陳情が共に採択された。後者では、「我が国の婚姻制度や家族のあり方に重大な影響を及ぼすおそれがある」と懸念を表明。LGBT条例制定の流れにブレーキをかけた形である。影響の大きさ、深刻さが認識されれば、このような動きも広がってくるとみられる。

(LGBT問題取材班)