揺らぐ米軍の「再建」
トランプ大統領、国防費減額の意向
軍や共和党から懸念
トランプ米大統領は、財政赤字の拡大を受け、これまで「軍の再建」を掲げて国防費を増額させてきた方針を一転させ、減額する姿勢を示している。これに対し、与党共和党議員や軍関係者らは、軍の近代化を進める中国やロシアに対し米軍の優位性を脅かすとして懸念を表明。トランプ氏に国防費削減方針の見直しを求めている。(ワシントン・山崎洋介)
トランプ氏は3日、ツイッターへの投稿で「米国は今年、(国防費に)7160億㌦も費やしている。狂っている!」と主張。中国やロシアとの間で軍縮を進めつつ、国防費の削減を求める姿勢を示した。
トランプ氏はこれに先立ち10月に、減税などの影響で18年度の財政赤字が6年ぶりの高水準となったことを受け、主要省庁の2020年度の予算を前年比で5%削減する必要があると指摘。その中で、国防費は、「恐らく7000億㌦になるだろう」と表明。7330億㌦とされていた当初の計画から削減する意向を示していた。
国防費は、オバマ前政権下に13年からの5年間で4840億㌦も削減されるなど縮小が進められてきたが、トランプ氏の就任後の18年度は前年比で820億㌦増となる7000億㌦、19年度は7160億㌦と2年間にわたって国防費が増額された。それでも、本格的な米軍の再建にはまだ不十分との見方は強く、トランプ氏の削減方針に懸念の声も広がっている。
共和党のトム・コットン議員は、先月27日の上院軍事委員会で、2年間の国防支出の増額は、「米軍の即応能力や近代化の遅れを取り戻すための頭金にすぎない」と指摘。また、米海兵隊元司令長官のゲイリー・ローヘッド氏は同委員会の証言で、「2年間の国防費の増額で、すべての問題が解決したかのような誤解があるが、こうした考えは、全くの見当違いだ」と強調した。
予算削減への懸念が高まる大きな理由は、軍拡を進める中国、ロシアの脅威だ。ローヘッド氏が共同委員長を務める米議会超党派の国家防衛戦略委員会が、先月中旬に発表した報告書では、「米国の国際的な影響力や国家安全保障をハードパワーの面から支える軍事的優位性は、危険な水準まで損なわれている」と指摘。その上で、「中国やロシアと戦った場合、勝つのに苦労するか、負けるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
国防総省は今年1月に発表した国家防衛戦略で、中国やロシアとの競争を戦略の中核に据え、テロとの戦いを優先課題とするそれまでの方針から転換したが、同委員会の報告書は、この戦略を実現するためには、国防費は、年間3~5%の伸びが必要だと主張している。
また、共和党の上下院軍事委員長のジェームズ・インホフ、マック・ソーンベリー両議員は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙11月30日付に連名で寄稿し、中国やロシアが軍の近代化を進める中、サイバー防衛や宇宙戦、電子戦などで、米軍の優位性が揺らいでいると指摘。「持続的で、十分かつ予測可能な軍事支出がなければ、米国の成功はない」として、当初の計画通り、20年度の国防予算を7330億㌦とするように求めた。
こうした声が上がる中、マティス国防長官は今月1日の講演で、国防費を7000億㌦とするトランプ氏の発言について「これは決定ではない」と強調。「トランプ大統領や議会のおかげで、米軍の優位性の衰えを食い止めることができたが、持続的で予測可能な資金供給がなければ、その効果はすぐに薄れていくだろう」と述べ、国防費の拡大を継続するように求めた。
一方、11月の中間選挙で民主党が下院の過半数を獲得したことを受け、下院の次期軍事委員長に就任すると予想される民主党のアダム・スミス議員は、19年度の国防予算について「将来にわたって持続可能な額でない」として、削減を目指す姿勢を示している。
来年2月には、トランプ政権の20年度国防予算案の発表が予定されている。こうした中、国防予算の規模をめぐって、今後、トランプ政権や与野党で論議を呼びそうだ。