絵本は国語力向上の最高の教材 愛や家庭の大切さ伝える読み聞かせ

絵本教育協会 浜島代志子会長

感情出さない「棒読み」は問題と指摘

 「今、絵本が危ない」と訴える、対話式読み聞かせ「絵本ライブ」がこのほど、沖縄県那覇市で開催され、乳幼児、児童、母親らが参加した。これまで、日本人が慣れ親しんできた童話が時代とともに変遷し、本来の意味を失いつつある。絵本・読み聞かせ研究の第一人者で、絵本教育協会の浜島代志子会長が本来の絵本を取り戻す教育を推進している。(那覇支局・豊田 剛)

反戦のメッセージに利用された「桃太郎」

絵本は国語力向上の最高の教材 愛や家庭の大切さ伝える読み聞かせ

浜島代志子氏(右から2人目)は父母らに読み聞かせの重要性を伝えた=那覇市真和志支所

 このイベントでは、単なる絵本読み聞かせ一方通行の読み聞かせではなく、話し掛けたり、歌を歌いながら、時には、参加者をステージに引っ張り上げるなど、聴衆を巻き込みながらダイナミックに絵本の読み聞かせをした。

 講師を務めたのは『1日7分の絵本で子どもの頭はみるみる良くなる!』の著者の浜島代志子氏だ。これまで40年以上にわたって絵本の読み聞かせ活動に携わっている。

 神戸市の中学校で国語教員をしていた浜島氏は約50年前に千葉県松戸市に移り、図書館や保育園などに出向き、子供たちに絵本の読み聞かせをしたり、人形劇を通じた情操教育に携わってきた。

 「絵本は文字を読むだけではなく、声を出して初めて価値がある。絵本の語りは音楽、劇場だ」と語る浜島氏。現在の躍動的なスタイルの「絵本ライブ」を始めたのは1970年代半ばごろだ。

 絵本は親自身の教育でもあると考え、「絵本ライブ」に父母の参加も求めている。小さい時から読み聞かをしている家庭の子供は、学力が上位に入るというデータがある。浜島氏は「教育の基本は国語で、そのための最高の教材が絵本」だと訴える。ところが、ここ数年、日本人の国語力が低下傾向にある。「国語力の低下は国力の低下につながる」と危惧する。

 那覇市で開かれた「絵本ライブ」では、親子が一緒に参加するスタイルで行われた。初めは落ち着きがない子供たちは、一緒に歌を歌い、途中から食い入るように参加していた。絵本の読み聞かせ方法は一方的ではなく、質問したり、話し掛けたりして、描かれている情景を自分の言葉で説明するのが特徴だ。

 浜島氏は「絵本は、世界または日本の民話がモチーフになったものが多く、民話にある愛や家庭の大切さなどの簡潔なメッセージは伝わりやすい」と話す。

 問題視しているのは、読み聞かせを「棒読み」で行う傾向にあることだという。GHQ(連合国軍総司令部)の影響を受けた日教組、公立図書館などが中心になり、抑揚をつけず、感情を表に出さない読み聞かせのスタイルを根付かせたという。浜島氏は、「これでは子供たちが絵本嫌いになってしまう」と指摘している。

 また、浜島氏は絵本研究をする中で、物語を曲解して伝えられることが多いことに気付いた。代表的な童話「桃太郎」はストーリーが変遷し、本来の趣旨から懸け離れたものになっているという。そこで、浜島氏は岡山県のゆかりの神社などに足を運び、史実を調べ上げた上で、オリジナルの「桃太郎」を発行した。

 現在、広く使われている「桃太郎」は桃太郎が征伐した鬼を連れて村に帰るという結末だ。「敵も味方も仲良く」「戦勝国が敗戦国を裁いてはいけない」「競争はよくないもの」という反戦勢力のメッセージに則(のっと)ったものになっている。また、昭和時代に伝わる桃太郎は、桃太郎を戦争の勝者、鬼を敗者として捉えているのが特徴だ。

 伝承(原話)によると、桃はイザナギ・イザナミの尊(みこと)を、鬼は内なる問題をそれぞれ象徴している。鬼を持ち帰ることはすなわち、善悪の矛盾を内包したままの人間で終わることになってしまうのだという。

 まだ、絵本の本来の意味を取り戻そうという人はほとんどいないのが現状だ。それでも浜島氏は、「共感する人の輪は広がっている」と手応えを感じている。「民話や童話、絵本の本来の意味を取り戻すことによって、日本人の精神を取り戻す」活動に意欲を示した。