「国防は国民の義務」自覚を

竹田 五郎軍事評論家 竹田 五郎

隊員募集苦労する自衛隊
産経「鎮魂の日」報道に違和感

 8月16日付の産経1面は、戦後70年間も平和を継続し得たのは「平和の祈り」のおかげである、というような紙面づくりで、全国戦没者追悼式における天皇陛下のお言葉の変遷を詳細に報じていた。ただ、陛下は「平和の祈り」だけでは平和が得られないことを十分御承知であろう。

 さらに同紙は23面に「鎮魂の日 孫連れ靖国に/『何か感じて』思い託す」との見出しで、全国戦没者追悼式に臨んだ3人の紹介記事を写真入りで掲載している。その中の一人、6歳の小学生は「(戦争は)大きな大きな国と国とのけんかで、やってはいけません。戦争をやらない約束をしにきました。ひいおじいちゃんのため頑張ります」と述べていた。陛下もこの記事をご覧になられたかもしれないが、戦争を憎む思いには喜びを感じつつも、今後のわが国の防衛に不安を感じられたのではないか、と拝察する。

 筆者が航空幕僚長当時、観桜会に出席し、整列して陛下をお迎えしたが、皇太子殿下(現天皇陛下)が昭和天皇に随行の列を離れ、筆者の前に来られ「航空事故には十分気を付けて頑張ってください」と温かい激励のお言葉をくださり、後ろにいた同伴の妻が感涙にむせんだ思い出がある。

 筆者は産経の愛読者であるが、産経はなぜ、「平和ボケ」日本人の考えを代弁するような小学生の言葉を掲載したのだろうか。戦争を全て悪とした偏向平和教育の結果であろう。

 昨年9月、本欄に「自主憲法の制定を急げ/自衛隊の『基礎体力』減衰/祖国防衛の任務も明示を」と題する拙稿が掲載された。米誌「ニューズウィーク」日本版8月15、22日夏季合併号「日本の未来予想図―国防について」を一読し、日本の未来に不安を感じたからである。

 それは「『普通の国』日本の戦争のできない未来」と題し、「憲法改正、自衛隊の国防軍化へと進んでも、もっと深刻な問題で、防衛力が維持不能に?」と指摘し、自衛隊の基礎体力の減衰を次のように憂慮している。高齢者社会白書によれば2036年には65歳以上は全人口の3割で、その後も少子高齢化現象は先進国の中で極めて大きく、老齢年金を予測し、老齢年金の増加で防衛費の増加は至難と断定している。

 仮に経済の維持に成功し、装備の近代化、基地の増加、整備等が強化されても、国防の「基礎体力」たる自衛隊員が不足しては、国防は成功しない。日本は憲法により軍備を禁じているため、自衛隊と称する武装集団を組織している。隊員は23万人未満で、任務を自覚し、戦闘訓練・勤務に精励しているが、隊員募集には大変苦労している。日本は27ある非武装国の中で突出した大国であり、他国は自衛隊を精鋭な軍隊と見なしているようだ。

 今や多くの国民はこれを容認していよう。しかし、世界を桃源郷のように夢想し、戦争放棄した平和憲法を信奉しているが、「平和の祈り」「不戦の誓い」だけでは国は守れない。

 戦後70年間も平和であったのは、米国の強大な抑止力、精強な自衛隊および巧妙な外交の成果である。日本は、諸外国のように国防を国民の義務として自覚せず、自主防衛の意欲に乏しく「平和ボケ」が続いた。

 『世界主要国価値観データブック』(08年、電通総研/日本リサーチセンター編)によれば、24カ国の18歳以上の男女に「もし戦争が起こったら、国のため戦うか」という設問に対して、「はい」か「いいえ」の二者択一で選択してもらったところ、多くの国で「はい」が「いいえ」を上回った。しかし日本は、「はい」はわずか15%と最も少なく、「いいえ」が「はい」を約30ポイント上回り、「わからない」が40%弱を占めていた。日本人の国防意欲は最低であった。

 織田邦男元空将は高校の担任教師に防衛大学入校を強く反対されたという。筆者は小学生の孫娘に「おじいちゃんは悪いことをしたの」と問われ、「なぜだ」と問いただすと、孫娘は「戦争をしたでしょう。戦争は悪いことでしょう」と答えた。さらに「誰がそう教えたの」と聞くと、笑いながら「先生」と答えた。筆者はこの答えに、戦争を全て悪とした戦後の偏向した平和教育に愕然(がくぜん)とした。

 産経は8月18日付で、「産経志塾31」での同紙論説委員と元統合幕僚長の対談を掲載した。この機会に、経済だけでなく、自衛隊員募集に支障を来しかねない戦争参加拒否の小学生の決意を否定し、非武装国も独立国として自主防衛の(単独防衛ではない)努力をしていることを紹介し、非武装、戦争全面放棄の欠陥について言及し、「社会の木鐸(ぼくたく)」として自他共に認める産経はさらに一歩進めて、教育勅語に明示されていた「義勇奉公精神」の復活推進を提案すべきだったのではあるまいか。

 日本は非武装国として平和を維持し得た故に、その先頭に立ち「世界の非武装化を進めよ」との運動もあるが、さらに大国化の野望を抱く国もあり、それは夢想と言えよう。

 力なき正義は無効である。国防は国民の義務であり、自衛隊はその中核である。

(たけだ・ごろう)