中国の脅威にやっと覚醒した日本

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

台湾情勢重視の防衛白書
インド太平洋構想の具体化を

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ・ギャルポ

 2021年7月1日、中国政府は二つの大きな記念式典を同時に華々しく開催した。中国共産党創立100周年と、中国のチベット解放(侵略)70周年を祝うものであった。習近平国家主席兼党総書記は国内外に向けて嘘(うそ)とはったりの大演説を行い、「今日の中国の大国としての実績はわがシステム(中国的共産主義)の勝利を意味する」と言い切った。

中国の発展助けた日米

 しかし現在の中国の巨大な軍事力、経済力は中国共産党の制度的なものから得たのではなく、鄧小平が共産主義を表面的に修正し、世界および中国国民を騙(だま)し、資本主義を積極的に導入したからである。またその過程ではアメリカ、日本などの、中国がいずれ民主化されることに対する幻想に基づく協力があったからである。軍事的にも共産党の人民解放軍は日本との戦争でも、1962年から67年の間の中印戦争でも、69年の中ソ国境紛争でも、79年の中越戦争でも共産党が自慢できる勝利は得ていない。もちろんチベットに関しては解放ではなく侵略であった。

 ただ習近平氏の言葉に一つだけ真実に近い言葉があった。それは、中国は台湾を統一する「歴史的任務」があるという部分である。それを受けてかの麻生太郎副総理兼財務大臣の「台湾の有事は日本の有事である」という的確な発言に、私は政治家としての麻生副総理に拍手を送りたくなった。さらに防衛白書と13日の岸信夫防衛大臣の記者会見を通して、やっと日本が中国の脅威を現実的なものとして認識したことを高く評価したい。

 読売新聞にも「急ピッチで軍備を増強する中国は、力による台湾統一も辞さない姿勢をあらわにしている。日本は、米国と連携し、不測の事態への構えを強化していくことが重要である。2021年版の防衛白書が公表された。深刻化する米中対立に焦点をあてたのが最大の特徴だ。日本の安全保障にとって、台湾情勢の安定が重要だという認識を初めて明記し、中国が軍事的な行動に踏み切る可能性について言及した。能力、意図、実際の行動のいずれもがその危険性を裏付けている。軍拡を背景とした東シナ海、南シナ海での威圧的な活動を見れば中国の脅威は現実化しつつあると言わざるを得まい」という社説(14日付)があった。

 既に中国の脅威に覚醒している産経新聞や世界日報であれば私も驚かないが、世界最大の民間の新聞である読売新聞がここまで認識が変わったということは、五十数年間日本で中国の本質的な脅威を訴え続けてきた私としては、微(かす)かな安堵(あんど)と時代の変化を感じさせられた。

 産経新聞によると防衛白書では「米国と中国の戦略的競争が激しさを増している現状を踏まえ、米中関係に特化した節を新設。中でも台湾をめぐる米中の対立は一層顕在化していく可能性があるとして、『台湾情勢の安定は日本の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要』との認識を初めて示した」(14日付)とある。

 ここで私は防衛白書を評価しつつ、一つ認識の誤りがあるように思う。日本の新聞および日本の安全保障や中国の専門家、メディアは、米中覇権争いや米中対立の中で台湾や日本を語っているが、私はこれが大きな認識の誤りであるように思う。つまり米中は対立せずとも日本や台湾にとって中国は脅威であり、世界にとっては自由を尊び民主的な政治制度を堅持する側と、一党独裁の専制政治的強権国家との対立である。この認識は根底に置くべきである。

中国の宣伝活動警戒を

 そのような意味では日米豪印の連携や、安倍前首相が提唱し、今やアメリカの外交方針の重点となっている「自由で開かれたインド太平洋構想」の、より具体化が急務であると信じる。最近、中国は人権問題で守勢に立っており、日本国内でも彼らの支持者を動員してさまざまな形のセミナー、集会、メディアなどを通して「チベット、ウイグル、モンゴルなどは幸せな生活を送っており、ジェノサイド(集団虐殺)はデマであり、アメリカなど西側の中国の発展を阻む意図が働いている」といった宣伝活動を活発に展開している。こうした妨害活動が、日本のみならず世界中で繰り広げられており、十分に警戒する必要がある。