対中戦略にグランド・ストラテジーを
日本安全保障・危機管理学会上席フェロー 新田 容子
日米豪印と欧州の連携必須
D10で政治・軍事的脅威に対抗
3月18日、アラスカで開催された米中外交トップ会談で、人権問題、サイバー攻撃、他国への経済的圧力などバイデン米新政権が抱える懸念事項について、両国による厳しい応酬が繰り広げられた。中国は不公平だと再度メディアを部屋に招き入れ、自国の持論を舌鋒(ぜっぽう)鋭く内外に向けて展開した。闘争的で謝罪をしない、まくし立てるだけの中国には、もはや対話重視の平和外交は適用できない。
直前の12日には米国主導で開催された初の日米豪印(クアッド)首脳会議では対中包囲網を目的とし、東・南シナ海への海洋進出、海警法も共通の議題とした。バイデン大統領は、今後4年間の米国外交政策、中国がもたらす課題に対処するには、同盟関係が軸になると述べる。4月には日米首脳会談が予定されており、同盟の強化を確認する意気込みだ。
研究開発など米を圧倒
中国は、世界のあらゆる地域(北極も含め)に進出し、競争を繰り広げ、経済的、軍事的(宇宙、航空、サイバー、海上、陸上など)、技術的な競争を加速・向上させており、研究開発や調達において米国を圧倒している。
クアッドは中国問題を検討し始めているが、現実には戦略的にも作戦的にもこの課題に対処する十分な態勢を取れているとは言えない。中国はその経済力を利用して、同盟ネットワーク内の国内的・国際的な亀裂を助長している。軍事、経済、貿易、テクノロジーとさまざまな分野を全て政治問題としてリンクさせ、ウィンウィンとは真逆の手法を取るのが特徴であり、課題ごとに区分して対応するロシアとは異なる。
従って、国家安全保障の面では英国ジョンソン首相提唱のG7諸国にオーストラリア、インド、韓国を加えたD10(民主主義10カ国)が最適だろう。中国の政治的・軍事的脅威に対応する調整手段として、情報ネットワーク「ファイブアイズ」を拡大し(日本や韓国といったインド太平洋地域の主要な同盟国は米国が最も機密性の高い情報を親密な同盟国と共有する「ファイブアイズ」のような取り決めの対象外)、国際機関における同盟国間の緊密な連携を実現させ、香港弾圧、台湾の扱いのような危機に対して同盟国がまとまって対応できるようにするなど、ハイレベルの政治的調整メカニズムとしての役割を果たすことが可能だ。
テクノロジー分野では、中国の高速大容量規格「5G」、人工知能(AI)、海底ケーブル、量子コンピューターの実現や量子暗号通信の能力向上への対抗については日本、ドイツ、英国などの正式な同盟国だけでなく、フィンランドなど能力の高い非同盟国も巻き込むのが賢明と言えよう。
日米同盟はアジアの安全保障の「礎」と呼ばれ、緊密な関係にあるものの、軍事的には北大西洋条約機構(NATO)のような統合された指揮・統制構造はない。実際、米韓同盟だけがアジアの条約上の同盟関係の中でこの仕組みを持っている。また、NATOのような多国間での緊密な相互運用性を生み出すメカニズムは存在しない。
一方、日本、オーストラリア、韓国などのインド太平洋地域の同盟国はNATOの「グローバル・パートナー」でもあるため、このイニシアチブに組み込む働き掛けも可能だ。
米国とインド太平洋地域の同盟国は、頻繁に2国間での軍事演習を行ってはいるものの、中国の軍事的侵略への対処に必要となる現実的な多国間演習については、まだ実験段階だ。
最近、欧州とのバーチャル会合では中国のデジタル・シルクロード(DSR)や技術優勢がホットトピックだ。中国のコロナ制圧の優位性を謳(うた)うプロパガンダ、ウイグルや香港の人権侵害に、欧州もようやく当国の行動原理を学ぶ必要性に気付き始めた。
同盟国間の協調強化を
中国の課題に効果的に対処するには米国の同盟システムの活性化、および運用面での革新が必要である。インド太平洋地域の同盟国間で能力と協調性を高め、世界的に増大する中国の存在感、影響力、パワーの管理方法についてアジアと欧州間でコンセンサスを高め、新たな多国間連携を確立させ、そして中国の技術的影響力に対抗するために同盟国のイノベーションの優位性をプールすることが効果的だ。
中国への抑止力を一層高めるには、米国、アジア、そして欧州との多国間の連携という新たな機会を生み出すことが必須である。
(2021年3月22日)
(にった・ようこ)






