米で感染再拡大 非難の応酬
米コラムニスト キャサリン・パーカー
事実に基づく対策必要
独立機関設置し調査を
責任のなすり合いが好きな人はいないだろうが、当人にとってはそうでもないようだ。新型コロナウイルスワクチンの大量接種が進んでいる中で、感染者が再び急増し始めている。誰が悪いのかをめぐって、非難合戦が最高潮だ。
CNNとのインタビューで、科学者のアンソニー・ファウチ、デボラ・バークス両氏は3月末、トランプ前大統領のミスのせいで、死ななくてもよかったはずの何千人の米国民が死亡したと非難した。トランプ氏も黙っていない。両氏が数々のひどい提案をしてきたが、それらを無視したのは賢明だったとやり返した。
しかし、事実は違う。流行の第1波と第2波へのトランプ氏の対応は明らかに、医学ではなく政治を動機としていた。
バークス氏によると、昨年4月にトランプ氏は、「ミネソタを解放しろ」「バージニアを解放しろ」「ミシガンを解放しろ」とツイートし、新型コロナタスクフォース、つまりバークス、ファウチ両氏を通じた連邦政府の勧告に真っ向から対立し、州の命令に反対するようけしかけた。
◇前大統領に不信感
バークス氏は、昨年秋に地方の住民に新型コロナを甘く見てはいけないと訴えた時のことについて、トランプ氏に脅されたという言い方は、あえて避けた。トランプ氏はあの後、バークス氏に電話し、叱責したが、その時の会話についてバークス氏は、「不快」で「聞くのがつらかった」と述べている。
「不快」という言葉は、感染爆発の中でトランプ氏とのホワイトハウスでの定例記者会見中にいつも見せていたバークス氏の表情をよく説明している。トレードマークのカラフルなスカーフでも、その時のボディーランゲージはごまかせなかった。トランプ氏の発言に驚いていたほどではないにしろ、不信感を持っていたことは明らかだった。
印象的だったのは昨年4月、トランプ氏が消毒液を注射すればウイルスは死ぬのではないかと話し、同意を求めるようにバークス氏の方に顔を向けた時の様子だ。トランプ氏はその時「検討してみてくれないか」と言った。
それに対しバークス氏が大声を出すようなことはなかった。なぜ、何も言わなかったのか。私は、画面に向かって叫んでいた。数カ月間で何千人もの人々が死んでいるのに、バークス氏はなぜ「もうたくさんだ。ばかばかしい」と言わなかったのか。
ファウチ氏も、毎日公開されるデータについてとりとめもなく話をするトランプ氏に対して、プロとして、個人としての意見を表明することもなく、平然としていた。ファウチ氏は1月末、記者団に、トランプ氏の大統領退任で解放された気分だと言っていた。
それはそれでいいのだが、ファウチ氏は自身の考えをもっとはっきりと表明し、トランプ氏のとりとめのない思考の流れを止めるべきではなかったのか。明らかに現状が理解できていない大統領に迎合するよりも、辞任して自由に考えを伝えるべきではなかったのか。
CNNのインタビューの後、トランプ氏もファウチ氏に対して発言している。ファウチ氏は、ワクチン開発を「全力で」進める自身の決定を「これまでで最もいい判断だった」と話したが、トランプ氏は、ワクチン開発を進めたのは自分だと訴えた。
トランプ氏は、封鎖の緊急性を最小限に抑えることで、経済の崩壊を阻止したと考えている。一方の顧問らは、封鎖によって、感染を抑え込めなくなるのを阻止し、多くの命を救ったと考えている。どちらも重要なことだが、経済は復活させられるが、失われた命は取り戻せない。
◇共犯と変わらない
他にも分かっていることがある。ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者とのトランプ氏のインタビューで明らかになったことだ。
トランプ氏は2月初めの段階で、新型コロナの致死性、空気を通じて感染することを知っていた。2020年1月29日にタスクフォースに加わったファウチ氏も、これを知っていたはずだ。しかし、その後数週間、政府からのアドバイスは、「手を洗おう」「顔を触らない」だった。
致死性があり、空気を通じて感染するウイルスの脅威を知っていながら、タスクフォースのアドバイスは、核攻撃を受けたら机の下にもぐれと子供に教えていた1950年代から60年代と変わらない。
バークス氏はCNNで、最初の死者10万人は、何が起きているのか当初は分からなかったのだから誰のせいでもないと述べた。ところがその後、適切な対策が取られていれば「緩和、または大幅に減少」していた可能性があったにもかかわらず、連邦政府の方針が定まらなかったことで、死者が出ていたことが明らかになった。これは、トランプ氏に直接向けられたものだが、バークス氏も、発言を控え、感染が拡大するのを許した責任があるのではないか。知っていたが、何もしなかったというのでは共犯と変わらない。
興味深いインタビューだったが、慎重に練り上げられた罪の告白では、直面する課題の解決の役に立たない。非難しても何も始まらない。今、国民に必要なのは、明確な事実と事実に基づく対策だ。
最近提案されたコロナウイルス委員会法は、そのための重要な一歩となる。超党派で、上下両院で支持されており、これによって「9・11委員会」のような方法で、感染爆発への国の備え、対応を調査する独立機関が誕生する。私が恐れているのは、調査によって、国民の命が止めどない自己愛の犠牲になったことが明らかになることだ。






