男女共創共活社会の実現を

麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗

違い活かし合い補い合う
ジェンダーの対照的相補性

高橋 史朗

麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗

 平成17年の自民党政権下の男女共同参画第2次基本計画では、当時大学で盛んだった「女性学」は「フェミニズムを正当化するイデオロギーである」などといった批判を踏まえて、「男女共同参画の形成に資する調査・研究の充実」の対象から外された。

 しかし、5年後の民主党政権下の第3次基本計画で、「高等教育機関において、ジェンダー研究を含む男女共同参画社会の形成に資する調査・研究の一層の充実を促す。また、研究成果を、学校教育及び社会教育における教育・学習に広く活用」「日本学術会議においては、ジェンダー研究を含む男女共同参画社会の形成に資する学術研究…多角的な調査、審議を一層推進する」と明記され、今日に至っている。

見失われた積極的側面

 20世紀前半までの諸科学が、「男性」(主に「白人」「優勢な民族」「健常者」の「男性」)を、「人間」の代表として扱ってきたことに対する反省として、1970年代以降に成立した「女性学」は、80年代半ばにはジェンダー学、ジェンダー研究に発展し、日本学術会議が研究推進の中心的役割を果たしてきた。

 第18期に「ジェンダー問題の多角的検討」特別委員会が設けられ、第19期には、ジェンダー学研究連絡委員会と21世紀の社会とジェンダー研究連絡委員会が設置され、平成17年に「審議のまとめ」として「男女共同参画社会の実現に向けて―ジェンダー学の役割と重要性―」が公表されたが、同年の第2次基本計画によって後退を余儀なくされた。

 第14回男女共同参画基本計画に関する専門調査会において、袖井孝子男女共同参画会議議員は、ジェンダーという言葉が最初に登場したのは、イヴァン・イリイチの『ジェンダー 女と男の世界』で、男女は違うけれども、お互いに補い合う「非対称的・両義的な対照的相補性」が本来的な姿だと定義したと解説した。

 ところが、近代産業社会になって商品経済が導入され、賃労働と不払い労働といわれる家事、育児などによって女性差別が発生したという。このイリイチの主張は反近代主義という批判を受けた。

 しかし、社会的、文化的に形成された性差、すなわち「ジェンダー」は、女性を抑圧するから解体すべきだという今日のジェンダー論は、男女の違いを活(い)かし合い補い合う「対照的相補性」という「通底する価値」の積極的側面を見失っているのではないか。

 その意味で、犬養道子の『男対女』における次の提言は傾聴に値する。

 「おぎないあうふたつの異なる存在としての両性の価値――限りなく大きなすばらしい価値を(中略)女性の社会への進出や、社会的地位の向上、差別なき賃金等を論じるにしても、ただ異性を標準として『戦いを挑む』のではなく、男性と異なる女性の特質をよりよく引き出す、もっと積極的具体的な発想法を打ちたてねばならない」(中央公論社、1980年)

 男女の人権の平等の徹底とともに、犬養道子が「永遠に女性的なるものの讃歌」と表現した「いのちを胎内にはらみ、新しい人間をひとりこの世に送り出し、その人間を育て上げ、日々食べさせて生き永らえさせ、内的生命を開花させるということの、何とおそろしいまでに大きな仕事であることか」という女性の絶対的特性をそのまま受容し、男女という異質の絶対的存在性を認めた男女共同参画社会の実現を目指す必要があるのではないか。

 また、社会学者の鶴見和子は「異なるものが異なるままにお互いを助け合い、お互いに補い合い共に生きる道」「お互いに独自性を尊重しながら、その底に響き合うものを読み取ろうとする方向へ向かう」ことの大切さを力説した。

日本の良さ生かし変革

 男女の違いを活かし合い、補い合い、高め合いながら、新たな秩序を共に創っていく円熟した「男女共創共活社会」を目指す必要があるのではないか。男女が補完し合って和合の文化を作り上げてきた日本文化の良さを生かしつつ、男尊女卑の差別意識と社会制度を変革し、男女が平等に協調して共創する新たな「機会の均等」を制度的に保障していくことが大切である。

 日本学術会議のジェンダー関連分科会が推進してきた「ジェンダーで歴史を読み替える」新高校歴史教科書の最新動向にも目を向ける必要がある。詳しくは『正論』4月号と『歴史認識問題研究』第8号の拙稿を参照されたい。(敬称略)

(たかはし・しろう)