家族の絆損ねる選択的夫婦別姓制

麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗

「子供の最善の利益」保障を
旧姓の通称使用拡大が現実的策

高橋 史朗

麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗

 11月11日に首相官邸で開催された第61回男女共同参画会議において、第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方についての答申が決定され、菅義偉総理に手渡された。

 同答申の第9分野「男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備」において、「国民意識の動向、女子差別撤廃委員会の総括所見等も考慮し、選択的夫婦別姓制度の導入に関し、国会における議論の動向を注視しながら検討を進める」と明記された。

別姓制への賛否相半ば

 同会議で配布された説明資料には平成29年の内閣府の「家族の法制に関する世論調査」のグラフが掲載され、「国が伝統的な家族観を大切にしていることで、結婚したくても躊躇(ためら)う・出来ない・諦める若者カップルが多くいます」「現に国民の中に、自分の名前を残したいがゆえになかなか結婚できない、結婚相手が見つからないでいる女性がたくさん存在する」ことが強調されている。

 このグラフの問題点について筆者は同会議で指摘したが、選択的夫婦別姓制度に反対する女性18~29歳(15・3%)、女性30~39歳(13・7%)と、女性の統計をピックアップしているが、実際には、男性を含めると29歳までの若者の19・8%が反対で、30代よりも6・2%高い。

 婚姻で姓を改めた人が前の姓を通称として使える法改正を容認する若者は28・1%で、夫婦別姓制度容認派(50・2%)と否認派(47・9%)は相半ばしており、米大統領選並みの僅差である。

 別姓制度の導入容認派は40代を過ぎると過半数を割り、70歳以上は容認派が28%と逆転している。同グラフは40代以上の統計はカットしているが、こうした世代差の顕著な世論の動向や若者の意見についても正確に見極める必要がある。

 別の子供調査によれば、夫婦別姓は「いやだと思う」が42%、「変な感じがすると思う」が25%で3分の2を超えている。前述した若者と30代の意識に差があるのは、こうした子供の意識と共通するものがあるからではないか。前述した内閣府の世論調査によれば、夫婦別姓を容認する人で実際に別姓を希望するのは2割未満で、別姓希望者は全体のわずか8%にすぎない。また、夫婦別姓は「子供に好ましくない影響があると思う」が63%に及んでいる点にも注視する必要があろう。

 平成27年に夫婦同姓を合憲とする最高裁判決が下され、「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位」と明記されたが、選択的夫婦別姓を推進する市民団体は、地方議会で自民党を巻き込むため、全国各地で「論議促進」の意見書採択を進め、4府県98市区町村で議決されている。

 選択的夫婦別姓制を認めた平成8年の法制審議会答申に法務省民事局参事官として関わった小池信行氏は、夫婦別姓制の問題点について次のように指摘している。

 「夫婦別姓を認めるとなりますと、家族の氏を持たない家族を認めることとなり、結局、制度としての家族の氏は廃止せざるを得ないことになる。つまり、氏というのは純然たる個人をあらわすもの、というふうに変質するわけであります」(『法の苑』第50号、平成21年春)

 児童の権利条約第3条には「児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と明記されているが、実際には親の都合や大人・女性の権利が優先されている施策が多く、夫婦別姓制もその最たるものである。

 菅総理は「絆」を重視する政策理念を掲げておられるが、「家族の絆の再生」こそが教育再生の最重要課題である。選択的夫婦別姓制に関する子供の意見にも耳を傾け、「子供の最善の利益」を保障するという視点にも配慮しながら、「国民意識の動向」を慎重に見極めて、十分に議論を尽くす必要がある。

戸籍法改正案の検討を

 旧姓の通称使用の拡大が最も現実的な解決策であり、民法の夫婦・親子同姓の原則を変更することなく、結婚して改姓した人の社会生活上の不便の解消のため、選択的夫婦別姓以外の施策の落としどころについて知恵を絞ることが喫緊の課題といえる。

 平成14年に高市早苗議員が提案した旧姓の通称使用を法制化する「戸籍法改正案」は、民法を改正することなく、戸籍法を改正し、戸籍の配偶者の欄の但(ただ)し書きに旧姓を通称使用する旨を記載することで、旧姓を公的に使用できるようにするものである。同案の検討から始めてはどうか。

(たかはし・しろう)