コロナ後の日本の広報外交
エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
移行期の学者ら招き研修
親日派の次期リーダーを養成
コロナウイルス感染が流行する前、国際防災会議のため、フィリピンへ行った。火山、台風、地震、土砂崩れなどの自然災害が頻繁に起きるフィリピンから学ぶことが多い。
会議後、首都マニラからルソン島南部まで行き、地方の取り組みを視察した。フィリピン人、日本人、アメリカ人、インドネシア人、バングラデシュ人およびスリランカ人から構成する私たちの団体は、現地である市長と夕食を共にする機会に恵まれた。その際、市長の任期がもうすぐ終わるが、制度上、再選できないことを知った。とても有能で年齢的にも若いが、この後の仕事の予定はないと聞き、もったいないと感じた。
地方に滞在し勉強・講演
帰国してすぐ、日本の外務省に連絡して、このような世界各地の人材を救いながら、いわゆる親日的な人材を養成し、日本の地方とその国とのパイプ役を担う人を支援する新たな制度を提案した。
筆者が考えた「Japan Study Program for Officials,Scholars,and Practitioners in Transition」(移行期の役人、学者そして実務家のための日本研修プログラム)と題する提言を紹介する。ここで言う「移行期」は、ある仕事や所属を終えて次のステップに移るまでの間を意味する。
このプログラムは、仕事移行中の外国の地方公務員、学者、実務家が対象。日本政府の経費で、日本の地方の大学、自治体、教育委員会、NGO/NPOなどに最大3カ月間滞在させ、そこで勉強し、講演を行い、そして人脈づくりや交流をする。その目的は、互いの国の発展に貢献し、日本との懸け橋になる、いわゆる親日的な人材を養成することだ。
世界中には、移行期にありながら、さらなる研究を希望したり必要としたりする才能のある人材が多い。このプログラムによって、こうした人々が日本に来て、田舎に居住し、地方の大学や自治体などと提携し、日本に関連するトピックに関する研究を行う。このプログラムは、本人と提携する組織はもちろん、地域社会にとっても、また、その人の出身国と日本との関係にも有益だ。
さて、どのように日本政府が実施できるか。実施方法に関する具体的な提案がある。政府は年間約1億円をこのプログラムに充てる。支援対象者(つまり、招聘(しょうへい)者)1人当たりの予算は最大100万円で、年間最大100人とする。申請は随時受け付け、原則として、主要都市以外の地域、特に人口減少が深刻な地域のコミュニティーに赴いてもらう。
招聘者(研究員)は、月額最大20万円の手当、月額5万円の研究費や旅行給付金、無料の住宅を受け取る。このプログラムはできるだけ多くの個人が参加できるようにするため、原則として延長不可。
招聘者は、滞在中に幾つかのセミナーや講演を行う。最初の講演は、滞在の最初の1週間内に行う。計画している研究を説明することが目的だ。次は、中間報告(進捗(しんちょく)状況などの発表)、そして、最終プレゼンテーションの合計3回。また、最終プレゼンテーションのフィードバックに基づいて、最終論文を提出する責任も負う。論文のトピックは、ホスト組織と個人が相互に合意したものとする。
こうしたプログラムが実現できれば、次の仕事までの間にあり、針路を決めることや生活に困っている優秀な若手(またはベテラン)が日本に来て勉強をし、人脈をつくりながら、その機会を提供した日本に対して恩を感じ、帰国後、母国と日本との友好関係、発展的な関係のために働くに違いない。
外務省は提案再検討を
これほどいい広報外交やソフトパワーの使い方はない。そう思い外務省に提案したら、「もっとお金がかかる」「地方自治体などとの調整が難しい」と、言い訳としか聞こえない返事が返ってきた。
細かく見積もった筆者は、その数字に自信があるが、仮にその1・5倍あるいは2倍かかったとしても、それでも価値がある。あるいは、軌道に乗り、実績ができるまで、参加者の数を半分にするという方法もある。
地方こそ、日本の魅力だと思うが、日本の場合、政府だけが「広報外交」を管轄できると思ったら大間違いだ。
上記の日本研修プログラムを提案してから、はや1年が経(た)とうしているが、政府は世界の次期リーダーを「親日派」にし、世界の人々を助け、その人材を養成する絶好のチャンスを失っている。それはお金で換算できない。
10月に入り、日本に入国するコロナ関係の規制が少し緩和される今こそ、このプログラムを再検討する時ではないか。











