石川県小松市の「八町こども歌舞伎」が上演

子供役者たちの熱演に客席から惜しみない拍手が送られる

 子供歌舞伎の盛んな石川県小松市で、今月4日、「八町こども歌舞伎」が上演された。会場の県こまつ芸術劇場うららには、顔に隈(くま)取りをして、華やかな衣装に身を包んだ5人の子供役者が勢ぞろいし、積み上げてきた稽古の成果を披露すると、客席から惜しみない拍手が送られた。(日下一彦)


女子児童5人が「曽我十二時揚巻助六の場」を演じ切る

 「八町こども歌舞伎」は、今年、5月の市祭「お旅まつり」で曳山(ひきやま)八基曳揃(ひきぞろえ)で上演される予定だったが、新型コロナの感染拡大で見送られ、この日に振り替えとなった。

 演目は「曽我十二時揚巻助六(そがじゅうにときあげまきすけろく)の場」。親の敵討ちをテーマにし、揚巻と助六兄弟が仇(かたき)を探す苦労を描いている。演じたのは公募で選ばれた小学3年生から6年生の5人(いずれも女児)で、8月下旬に練習を再開。師匠の中村熊昇(くましょう)さん(66)=愛知県新城市=の指導で、せりふや所作に取り組んできた。

 公演は午前10時半、午後1時半、同4時の計3回で、感染症対策のため850人収容の会場を、1回当たり200人に限定し、全席指定とした。さらに歌舞伎独特の掛け声は、2階席のスタッフだけに限られ、観客は拍手だけを送る徹底した配慮の中で演じられた。

息の合った難しいせりふの言い回しや所作に成長の跡

石川県小松市の「八町こども歌舞伎」が上演

石川県こまつ芸術劇場うららで上演された「八町こども歌舞伎」で、助六(右)と幾助のやりとりの場面、左奥が揚巻=10月4日、石川県小松市(小松市観光文化課提供)

 4時からの最終公演の前には、役者たちが舞台の花道で父親や兄に手を引かれて登場する「お練り」が行われ、歌舞伎の町ならではの光景が見られた。開催を告げる保護者の力強い口上に続いて、禿(かむろ)役の5年生の宮田真心(まこ)さんが子供口上を務め、張りのある声で登場人物一人一人の名前と役どころを説明し、幕が開いた。

 艶やかな花魁(おいらん)姿の揚巻(実は曽我十郎祐成〈すけなり〉=廣瀬虹来〈ここ〉さん=6年)がしずしずと登場すると、スタッフから「いよっ」「待ってました!」と声が掛かり、子供役者たちは息を合わせて難しいせりふの言い回しや所作をよどみなくこなしていた。

せりふに学校生活を織り込み、飛び出すアドリブには会場から笑いも

石川県小松市の「八町こども歌舞伎」が上演

石川県こまつ芸術劇場うららで上演された「八町こども歌舞伎」で、舞台で勢ぞろいし見えを切る子供役者たち=10月4日、石川県小松市(小松市観光文化課提供)

 この歌舞伎の名物となっているのが、せりふの中に身近な学校生活や子供同士の関係が巧みに織り込まれている点だ。今回も主人公の助六(松岡閑奈〈かんな〉さん=5年)と仇の家来幾助(村井美智乃さん=3年)とのやりとりの中で、幾助が懐にしまってある証文を「見せろ、見せない」の押し問答があり、幾助が「では、俺の股をくぐれ」と催促すると、助六は「おまえと俺は同じ小学校じゃないか、くぐらせてくれよ」と頼み込むが、「いくら友達だって言っても通さねえ」と拒否する。会場から思わず笑いが起こった。こうしたアドリブが随所に飛び出し、毎年これが人気で、子供歌舞伎が親しまれる要因になっている。当日は約550人が来場した。

 子供役者たちに感想を聞くと、「緊張したが、しっかり声を出して大きな演技ができたと思う」(松岡さん)「子供歌舞伎の伝統がずっと続いてほしい」(廣瀬さん)などと語っていた。師匠の中村さんは「上手下手よりも舞台で一生懸命やってくれる、そのことが大切です」と語り、児童の成長にエールを送っていた。

 なお、司会進行は「こまつ曳山交流館みよっさ」の名誉館長で、元NHKアナウンサーの葛西聖司さん(古典芸能解説者)が務め、市政80周年記念として行われた。