ポンペオ米国務長官声明の意味

東洋学園大学教授 櫻田 淳

米中確執、新たな次元に
問われる日本の「多国間協力」

 米中確執は、新たなフェーズに入った。「ロイター通信」記事(7月14日配信)が伝えたところに拠れば、7月13日、マイク・ポンペオ(米国国務長官)は、声明を発し、「われわれは、南シナ海の大部分における海底資源に対する中国の主張が、その支配を目的とする嫌がらせ行為と同様に完全に違法であることを明確にする」と述べた。

東洋学園大学教授 櫻田 淳

東洋学園大学教授 櫻田 淳

 そして、ポンペオは、「国際社会は南シナ海における中国の領有権主張を認めない」と強調した上で、「米国は東南アジアの同盟国が、国際法の下で定められた権利と義務に基づき、海底資源に対する主権を守ることを支持する」と語った。

「領域」にまで批判拡大

 米国は従来、南シナ海や東シナ海での領域紛争に際して局外中立の姿勢を採ってきたけれども、ポンペオは、その姿勢を転換させたのである。

 「ウォールストリート・ジャーナル」社説(7月14日配信)は、ポンペオ声明の意義について、次のように記している。

 「国務省の13日の決定は、米軍の展開とともに、アジア地域における中国の威圧的な行為に対抗する戦略を米国が強化しつつある可能性を示唆している。

 今回の決定は、米国の公式な政策を国際法と地政学的な事実に即したものにする。今年の大統領選でどの候補が勝利するかにかかわらず、中国の違法行為と領土拡大を食い止めることが、2021年の米国の外交政策の主要優先項目となるだろう。今回の決定はそれに必要な最初のステップである」

 ポンペオ声明に先立つ1年前、米国連邦議会上下両院では、南シナ海・東シナ海方面での中国の挑発に制裁を課すことを趣旨とする「南シナ海・東シナ海制裁法案」が、揃(そろ)って提出されていた。

 ポンペオ声明は、言及の対象を南シナ海に限っているとはいえ、「中国の南シナ海と東シナ海での軍事攻勢と膨張は、国際的な合意や規範に違反する不当な行動であり、関係諸国を軍事的、経済的、政治的に威嚇している」という法案の認識に沿ったものである。

 ウイグル、チベット、香港の情勢に絡んで対中強硬法案が続々と成立した後、「南シナ海・東シナ海制裁法案」は、対中批判の射程を「経済」や「人権」から「領域」にまで拡(ひろ)げるという意味では、米中確執の次元を確実に高めることが予見できた。ポンペオ声明は、そうした立法府たる連邦議会の動きを先取りしたものである。

 故に、尖閣諸島を含む東シナ海方面で中国に対峙(たいじ)する日本にとっては、ポンペオ声明は歓迎できるものである。実際、菅義偉(内閣官房長官)は、ポンペオ声明を受けて、「地域の安全保障環境が厳しさを増す中、地域の平和と安定に向けた揺るぎない米国のコミットメントを示すものである」と表明した上で、「日本政府は米国のコミットメントを支持したい」と述べた。

 そこでは、ポンペオ声明の射程が東シナ海に拡がるものであることが、自明のように諒解(りょうかい)されているのである。

 もっとも、南シナ海・東シナ海方面での領域紛争に際して、米国が旗幟(きし)を明確にする対応を示したことは、日本に対しては、特に尖閣諸島を含む南西諸島の防衛に際して、一層の自覚的な努力を要請することになるであろう。

東南ア諸国との連携を

 先刻、配備計画が撤回された「イージス・アショア」に反映されたような「日本は『盾』、米国は『矛』」の原則に囚(とら)われずに、南シナ海・東シナ海方面情勢を念頭に置き、どれだけ実質的な日米共同対応の仕組みを整えるかが大事になる。

 この仕組みの中に、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアのような東南アジア関係諸国を入れる努力も、併せて進められなければなるまい。日本の「多国間協力」構想の如何(いかん)が問われようとしている。

(敬称略)

(さくらだ・じゅん)