コロナウイルスと科学の重要性

 新型コロナウイルスの世界の感染者数は1036万人に達した(7月1日:世界保健機関〈WHO〉)。死亡者数も50・8万人で、南北アメリカ大陸の感染者数が522万人と最も多く、中国や韓国は再度波を迎え、経済活動を早期に再開した米フロリダ州やテキサス州では感染が拡大している。

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之

データに基づく対策を
海洋生態系調査は日本の責務

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之氏

一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之氏

 日本も東京で連日50人を超え、2日には107人の感染者が発生した。一方で、6月24日専門家会議が突然に廃止させられた。政府は法的根拠がなかったからというが、専門家会議が公衆衛生と科学面から見て有効な助言を提供したかどうかで判断すべきである。

 6月24日、国際通貨基金(IMF)は世界経済成長見通しを発表し、2020年の成長率をマイナス4・9%に下方に修正した。スペイン、イタリアはマイナス12・8%で、その落ち込みが大きい。米国がマイナス8%で、日本はマイナス5・8%であった。ヒトとの距離を置くための生産性低下や、コロナウイルス感染症の発生の第2波を警戒する人々の外出控えを理由としている。21年の成長率も5・4%にとどまると予測、第2波が来ればさらに下方修正されよう。

30億年前に海洋で誕生

 水産物の流通・消費量で見ると、対前年比は最低時3~4月の約40%減から、6月には10%減まで回復したが、これからの回復は遅く鈍いであろう。

 WHOや日本の専門家会議が言及し、かつ英エコノミスト誌が強調した点も、科学的調査とデータの重要性である。日本はPCR検査(6月7日以降1日当たり6000人程度)が計18・4万人(6月30日)、抗体検査も世界各国に比べて極端に少ない。米では3546万人が検査を受けた(7月1日:米疾病対策センター〈CDC〉)。これでは日本の対策が不正確で不必要に広範囲になる。

 感染者が発生しなかった岩手県も含め、日本全土に政治的に緊急事態宣言を出し、必要ない所まで、経済的な活動を大きく制約・削減した。WHOは「データを取り、それに基づき監視(サーベイランス)と検疫をすれば、過大な対策となることを回避できるし、かつ、効果的な対策を立てることができる」としている。感染症の封じ込めにも有効で、経済の維持と回復にも有効な対策を立てられる。科学とデータは力強く、重要な資産である。

 科学とデータの重要性は、漁業・水産資源を守るための資源管理でも重要だが、日本の漁業者は漁獲データを提供したがらず、行政も自民党もそれを容認してきた。だから、2019年の漁業生産量は416・3万㌧で大幅に減少した。1955年(昭和30年)以来最低である。そして漁業者には多額の補助金が使われたが、漁業資源の回復には全く逆効果だった。科学的根拠に基づく資源回復の政策を打てなかった。かえって補助金は漁業者のやる気をそぎ、また、将来への投資やイノベーションの投資も阻害した。

 現代人類の祖先は約20万年前に誕生したが、ウイルスは海洋で30億年前に誕生した。

 海洋には10の31乗個(10の12乗で1兆である)のウイルスが存在し、海洋生態系の重要な要素を担っている。海洋の細菌、プランクトン、海藻そして、魚類にウイルスが寄生する。ウイルスは生態系の物質や栄養の循環に貢献する。すなわち、バクテリアとプランクトンなどを分解し、栄養と物質循環に必要不可欠な役割を果たす。

 現時点で人間に害を及ぼすものはないがクロマグロ、ヒラメ、アワビやエビにもウイルスが寄生する。

ウイルスからクジラまで

 ウイルスと人類の海洋水産資源を通じた関係も変化しよう。魚類養殖ではクロマグロなどの魚類の密度が高まり、魚同士が密接で高密度の環境に置かれる。ウイルスの繁殖に好都合になるため、養殖の状況の監視が重要となる。

 海洋の二酸化炭素の溶解量が増加し、酸素の融解量が減少して生物量は減少する。宿主生物の植物プラントンや海藻や魚類の生物資源量が減少する(2019年9月の国連IPCC報告書)と、今回の新型コロナウイルスのように、海洋のウイルスが変異し、人間との間に特別の変化が起こることが考えられる。だから、常に海洋生態系を調査・研究することが重要である。その調査・研究は海洋生態系のウイルスから最大の海産哺乳動物のクジラまで、海洋国家の日本としての責務としたい。

(こまつ・まさゆき)