抜本的改善必要な感染症対策

元統幕議長 杉山 蕃

第三者調査組織の設置を
一段と強まった生物戦の脅威

元統幕議長 杉山 蕃氏

元統幕議長 杉山 蕃氏

 猛威を振るったコロナ型新感染症の拡大も、種々の対策が効果を挙げつつある状況となり、さらなる回復が望まれるところとなった。やや愁眉を開く段階と思料するが、社会全体の復興は遠大なる課題であり、国民挙げての精進が必要であろう。

表に出ぬPCR検査数

 日々の報道の中で、筆者は早い時期から、疑問に思うところがあった。それは、感染者数の発表に際し、PCR検査数が表に出てこないことであった。通常の理解では、何人を検査して何人「陽性」とするのが妥当である。にもかかわらず、新聞・テレビ報道では新感染者数ばかりで、何人検査したのか報道しない。他方では、電話相談を先行させる処置であるとか、37・5度の発熱が4日間継続するとかの厳しい条件が発生した時といった厳しいバリアーを設けて、診断を入り口で遮断することを公共手段で宣伝する。また「医療崩壊」という語を使用して現場の窮状を報道する異様な状態が続いた。5月に入って、筆者と同様の問題意識を持つ識者のコメントがネット上に現れだした。

 PCR検査の実態は人口1000人当たりの検査数が公表され、5月初旬では欧米諸国は11人(仏)から35人(伊)であるのに対し、我が国は1・4人と異常に低いのである。米国は20人、韓国は17人である。読者はこの屈辱的と言える数値をどう捉えられるであろうか。在米の評論家・冷泉彰彦氏の表現では「PCR検査数が異常に低く感染者数の見えない、従って収束も確認できない謎の国」のイメージが出来上がると、インバウンドどころか1年後の東京五輪・パラリンピックにも悪影響ありとする。

 しかし、PCR検査数が低いといっても死亡者数が圧倒的に低い我が国は、逐次改善をしていけばよいとする見方が関係者に強い。ところがこの死亡者数も検死に当たる大学病院等がコロナウイルス対応が困難なため検死を拒否、一般肺炎死亡者として処置しているため、実数は、倍以上になるのではないかとする見方がある(評論家・大村大次郎氏)。何ともショッキングな意見である。これらの情勢を意識してか、厚労省は、検査デバイスの改善・迅速化が進んでいることをPRし始めているが、肝心の検査技師数は資格付与の敷居が高く、なかなか思うように進まないことが懸念されている。

 こうして見ると、我が国の感染症パンデミック(世界的大流行)への対応力は極めて脆弱(ぜいじゃく)であり、抜本的改善が必要であると言わざるを得ない。幸い死亡者数は大村氏が危惧するように2倍の実数であったとしてもまだまだ十分に低い。収束への努力を継続するとともに、抜本的改善のための、第三者調査組織を立ち上げ、活動を開始すべきである。おそらくは医師法の基幹理念である「高い資質」を優先したやり方から、大流行という絶対数の急激な拡大に対応できる柔軟な制度が提唱されることになると考えている。諸外国の状況を参考に、国民が納得できる改善策を至急構築してほしい。

 自衛隊の活動について見てみたい。前々回触れたごとく、自衛隊は、「災害派遣」によりダイヤモンド・プリンセス号の対応に出動し、延べ4500人を投入、その処理を無事終了した。その後も各都道府県からの要請により、全国で支援活動に活躍しているが、そのほとんどは輸送、教育といった部門であり、防疫、検査といった「医療崩壊」が懸念された正面と言える分野ではない。自衛隊は全国に17の病院を持ち、急場にはかなりの力を発揮できると考えられる。全国に所在する警察病院も公立病院ではないものの、大きな力を持っている。

縦割り行政の脆弱さ露呈

 今回の対応で見本とすべき台湾・韓国は、眼前に「生物戦大国」の中国、北朝鮮が対峙(たいじ)し、生物戦も作戦計画の重要な一部となっていることは容易に理解できるところである。今回は日頃からの緊張感、そして国家的総合対応態勢が現れたものと見ることができる。我が国においても、生物戦の脅威が一段と強くなったとの認識と、我が国の縦割り行政の脆弱な対応力を露呈したとの厳しい認識が必要である。パンデミックについては収束に明かりが見えてきた昨今、遅まきながら改善の好機と捉え、医師集団による専門的意見のみではなく、幅広い視野から国家的にあるべき像を確立し、国民が安心できる施策を目指してほしいものである。それが政治の果たすべき役割であろう。

(すぎやま・しげる)