反対世論押し切り国会議員に―韓国元慰安婦団体トップ
韓国でいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる支援運動を隠れ蓑(みの)に募金や国の助成金を横領していた疑惑などで物議を醸していた元支援団体トップが、世論の反対を押し切る形で国会議員になった。団体が文在寅政権や与党、共に民主党と密接な関係にあることが背景にあるとの見方もでている。
擁護の文政権 団体と密接
検察捜査も「抜け道」念頭か
任期4年の第21代国会が始まる前日、元支援団体トップの尹美香氏は国会内で記者会見に臨み、自身の疑惑について全面否定した。照明の暑さゆえか極度の緊張感からか、尹氏は顔や首にびっしょりと汗をかき、それが時折滴り落ちた。
直前の世論調査では尹氏が国会議員になることに7割以上が反対。疑惑浮上で長く行方をくらませていたが、国会が始まる前日に照準を合わせたように公の場に姿を現した。
記者からは相次いで疑惑の真偽を正す厳しい質問がぶつけられたが、答えは全て「事実ではありません」。傍にいた与党議員が尹氏の体調を理由に会見を制止し、その場を去ろうとすると、ある記者が「結局、自分には何の過ちもないということじゃないか!」と怒声を浴びせた。
こうして尹氏は「今日一日だけ耐えればいいという考えがにじみ出ていた会見」(保守系野党、未来統合党の副報道官)を終え、国会議員になった。疑惑をめぐり検察の捜査が始まっているが、国会議員になってしまえば不逮捕特権がある。巨大与党の後ろ盾があり、国会で逮捕同意案が可決するはずもない。尹氏にはそんな計算もあったとみられる。
自称元慰安婦からの告発を契機に「一晩寝て起きると新たな疑惑が生じる」(韓国メディア)ほど数々の不正疑惑にまみれた尹氏だが、それにしてもなぜ反対世論を承知の上で国会議員になることに固執したのだろうか。
これについて保守系の朝鮮日報は、尹氏が理事長を務めた支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(=正義連、旧挺身隊問題対策協議会=挺対協)の出身者たちが「活発に政界、官界に進出したことで正義連の存在感が増し、青瓦台も与党も批判できない政治勢力になった」と指摘する。
また同紙は、検察の捜査を受けている現在の正義連事務総長は青瓦台秘書官の夫人だとし、その秘書官が最近になって辞表を出したのは「尹氏疑惑が青瓦台まで飛び火するのを未然に防ぐためではないか」と疑問を投げ掛けた。
文政権は市民団体が支持母体となっていて、中でも正義連の場合、「文政権が政治的ヘゲモニーを握る上でその反日主義が決定的役割を果たすなど、いわば政権の大株主の一つ」(『反日種族主義』の著者の一人、朱益鐘氏)と言われるほど。尹氏が国会議員になることを与党が擁護し、青瓦台も事実上黙認したのは、こうした両者の密接な関係があったからこそ可能と言える。
韓国中を大騒ぎにさせた●(「恵」の「心」を「日」に)国前法相の疑惑をめぐり文政権と対立する尹錫烈・検事総長は、尹氏と正義連の疑惑を「迅速かつ徹底して捜査」するよう指示。すでに正義連関係者が次々と聴取され、“本丸”の尹氏にもいずれ捜査が及ぶとみられる。そうなればまた両者の意地のぶつかり合いが再燃しそうだ。
ただ、来月になれば政権にとって都合の悪い捜査から検察を外せる「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)設置法」が施行される予定。尹氏が疑惑をものともせず国会議員になったのは、こうした「抜け道」まで準備されているからかもしれない。
(ソウル・上田勇実)