ポスト・コロナ禍の世界に向けて

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

防疫戦争総括し教訓残せ
中国は共同現地調査に協力を

茅原 郁生

拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

 中国を発生源とするコロナ禍は世界に拡大し、450万人に感染し、死者も30万人を超えている。14世紀のペスト(黒死病)などに続くコロナ・パンデミックは何処(どこ)まで拡大するのか、先の見えない不安が続いている。まさに対コロナ防疫戦争は第3次世界大戦と言っても過言ではない。しかし中国は延期していた全人代の22日からの開催を決定し、インドや欧米でも経済活動のため規制緩和に着手するなど、感染封じ込めの成果も見えてきた。わが国の事態はなお予断を許さないが、ポスト・コロナ禍を睨(にら)んで取り組むべき課題についても考えておきたい。

人間の英知の限界露呈

 ポスト・コロナ禍で最大の課題は、生物を殺す細胞破壊の新ウイルスの再攻勢にどう備えるかを探る今次防疫戦争の総括と教訓を備えとし、世界分断の予防にあろう。次いで「3密(密集、密閉、密接)」を主軸に据えた防疫対策は社会活動を極度に規制し、結果としてもたらされた経済的ダメージへの対応である。

 その前に今次のコロナ禍から人類は二つのことを思い知らされた。一つは人類が地球生態系の頂点に立つとされてきたが、生物であることに変わりはなく、得体の知れないウイルスの突如の攻勢に脆(もろ)くも生命の危機に晒(さら)されてきたこと、もう一つは人類が存続の危機に直面するにもかかわらず、世界は国境を越えて団結した一丸となった対応ができなかったことである。

 周知の通り前者で見れば、人類は霊長類として生物界の頂点に立ち、文明を蓄積してIT時代と言われるような高度な科学技術の進歩や宇宙・深海の開発、気象予測など自然を制圧したかに見えた。しかし今次の細胞破壊のコロナウイルスの来襲には宗教さえも手の施しようもないまま人間の英知の限界を感じさせられた。

 後者では、世界はなお国際社会では国境や体制を越えて一丸となった防疫協力体制はできないのみならず分断の危機を招き、引き続きそれぞれの国家主権や国益を争いながら防疫戦争に対応している。特に米中間では安全保障が絡む覇権争いを引きずっている。実際、米空母の乗組員のコロナ感染で機動部隊の機能が低下すると見るや、中国は空母部隊を台湾付近に周航させ、新型駆逐艦隊をハワイ島沖にまで進出させるなど、挑発的な軍事行動を活発化させていた。

 このような現実を踏まえて、ポスト・コロナ禍の最大の課題は、コロナウイルスのような将来再襲する新しいウイルス攻勢の封じ込めや、特効薬・ワクチンの開発など対処上の教訓を人類共通の財産として残すことと協力体制の確立である。そのためには今次コロナウイルス禍はどのような条件下で発生し、拡散したか、などの調査分析の結果の集積が重要になる。そのためには武漢ウイルス研究所などの実地調査が重要になるが、中国は初動対処や共産党独裁体制への批判を恐れて反対している。しかし中国は発生源を抱え、これまでの対症統計数値にまで疑念が抱かれてきた経緯もあり、マスク攻勢よりも医学的調査には今こそ協力して取り組むべき責任がある。

 次の課題は、コロナ禍の防疫戦争では人間の経済活動を規制することで、経済に大打撃を与えている。例えば中国経済も前1~3月期の統計ではマイナス6・8%を記録している。ポスト・コロナ禍の世界経済はどうなるか、特にグローバル経済の恩恵下で急成長した中国経済は回復できるのか、などに対して自由貿易の発展や国際協調路線の維持に向けて取り組む重要性は大きい。

 先に見てきたように、現実的にコロナ感染抑止策は国によって各様に進められてきた。翻ってわが国も総理大臣の非常事態宣言発令に基づき「3密」回避の自粛が要請され、民度の高さからそれなりの成果を上げてはいる。しかし中国などの政治体制の国家では、1000万人口の武漢市を強権的にロックダウンすることで、3カ月足らずで感染を封じ込めている。また米国では感染者が120万人を超え、死者はベトナム戦争時の戦死者を上回る状況を踏まえ、トランプ大統領は今日のコロナ防疫を「戦時」と捉え企業に「防衛生産」を指令している。

憲法に非常事態条項を

 私権の制約に繋(つな)がる強制措置は国情に応じて慎重であるべきは言うまでもないが、防疫戦争を世界と共に戦うには、わが国も緊急非常事態には強制的な指令ができるよう憲法に「非常事態対応」の条項を盛り込むこともポスト・コロナ禍を睨んだ備えとすべきではないか。

(かやはら・いくお)