次期戦闘機へのF9搭載を期待

元統幕議長 杉山 蕃

高性能の国産エンジン
燃焼温度1800度の高温化を実現

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 先日、航空自衛隊次期戦闘機(F2後継)の開発に向け、日米両国企業で構成する作業部会を設置する方針を政府が固めた旨報道された。これは、一昨年末の新防衛計画の大綱、新中期防により、航空自衛隊の戦闘機更新計画が決定され、F4の後継として導入中のF35を147機に増強、近代化改修の行われていないF15の後継に充てることとし、新中期防間調達する45機のうち18機は、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の艦載運用が可能なF35Bとする。さらに、F2後継については、我が国主導による国際共同も視野に入れた開発とすることが決定されていたのを受けたものであり、既定方針に基づくものであると言ってよい。

米国との国際共同開発

 既に本年度予算には280億円が計上され、初期的な作業は始まっているのである。今回決定の大きなポイントは、国際共同開発の相手国が米国となったことである。総合的技術力、相互運用性等の見地から米国と決まったようであり、結構なことと考えている。

 思えば35年前、現在のF2選定に当たり、国産候補機種の採用を強く望みながら、F16改とも言えるF2にならざるを得なかった苦い経験を思い出す。国産候補が敗れたキーは、自前のエンジンが無く輸入に頼らざるを得なかったことにあった。航空自衛隊発足以来、30年間に及び我がエンジンメーカーは、J47、J79、F100といった時代の先端を行くエンジンをライセンス国産し、その製造品質は高く評価はされていたが、戦闘機用のエンジンを開発する技術レベルになかったのである。

 しかし今回は状況を異にし、我が国にはF9という切り札的高性能エンジンがある。一昨年完成したXF9(IHI製作)は、直径等世界の代表的エンジンに比しスリムさを誇り、15㌧以上の推力を有する画期的エンジンである。この存在が「我が国主導で共同開発する」と公言する大きな背景となっているのである。

 我が国の航空エンジン製造技術を顧みると、戦後10年の空白を経て、ジェットエンジンに取り組んだものの、当初の躓(つまず)き(J3)からその進捗(しんちょく)は遅々たるものであった。しかし先進戦闘機エンジンのライセンス国産で培った製造技術を背景に、列国の民間用エンジンの緊要部門の製造、宇宙開発ロケットで培った高熱素材および加工技術を吸収し、その潜在力を高めてきた。特に航空自衛隊T4用エンジン(F3エンジン)以降急速に発展し、短期間で一流のレベルに到達したと言える。

 F9エンジンの技術的特長は多々あるが、ジェットエンジンの推力を決定するとまで言われるタービン入口温度を1800度という高温に上げたことにある。列国の先端エンジンが1500度程度であるのに比し、大きな先進性を発揮している。この高温化を可能としたのは、高品質の耐熱超合金素材と、溶接鍛造等の高い材料技術である。また我が国が最も進んでいるセラミック複合材を適用したのも高温を支える大きな力となっている。このようにしてみると、F9の成功は決して偶然ではなく、長くかつ濃度の高い技術開発の上に成り立っていると考えるべきである。

 しかし、F2後継機作業はまだ始まったばかり、XF9エンジンを搭載することが決まったわけではない。おそらく今後も積み残した推力偏向ノズルの開発をはじめ、実用化への道はなお険しい。おそらくF2後継機は、ステルス時代に対応した双発の大型戦闘機になると考えられ、搭載アビオニクスも、ネットワーク戦を前提に、新しいシステムが開発されていくことになる。これら機体設計の進捗とともにXF9を如何(いか)に適合させていくかという努力も大きな課題である。

 中国が壮大な海洋進出構想の下、空母を中核とする海軍拡張計画が、大出力エンジンの国産化に躓き、艦載戦闘機が初期の性能を得られない遅々とした状況にあることを見れば、我が国としては一層の努力を傾注し、15年後には量産F9を搭載した国産F3戦闘機が我が領空主権を堅守し、航空防衛の中核となっていくことを強く望むものである。

民間にも技術反映へ

 先端を行く新エンジン技術の定着は、軍用のみならず需要の大きな民間用エンジン生産へ強くフィードバックされることが当然期待される。F2開発で世界に示した「一次構造部材を含むファイバー化」技術がB787等に即反映されたことを銘肝すべきである。「頑張れF9!!」

(すぎやま・しげる)