捕鯨政策と水産外交の在り方

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

日本はIWCに復帰を
重要な調査捕鯨での情報収集

小松 正之

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

 筆者は2月12日、参議院の国際経済と外交に関する調査会に参考人として呼ばれた。他に「さかなクン」と漁業ジャーナリストの片野歩氏も招致されたが、議場入り口には報道関係者が殺到していた。

 2002年5月、下関市での国際捕鯨委員会(IWC)総会開催時には、過剰な報道陣に囲まれたが、この日はさかなクンのハコフグの帽子が注目点であった。帽子着用で国会議場入場の前例がなく、このことが話題になっての報道陣の過熱ぶりであった。

 日本のマスコミとは困ったものである。政策にも外交にも興味がなく、報道することもなく、さかなクンの帽子の着用だけが注目された。

 さかなクンが、国会の場で水産政策や外交を語る見識や、漁業権について十分で適切な知識を持ち合わせているとは到底思えない。参議院が真に政策と外交ついて参考人に助言を求めるのならば、別の選択があっただろう。

 議員の中に「帽子をかぶった感想」を聞く者がいたが、時間が限られた政策検討の場で適切な質問だったとは思えない。

誠意のある対話が基本

 国会調査会は、与野党が勢力分野ごとに各10分間で質問し、ディベートがない。議会が長い歴史の積み重ねの中で、王党派と議会派が血を流す内戦と革命を経て確立された英国と、第2次世界大戦後に英議会制民主主義の入れ物をもらったが、中身は真似(まね)ることができない国との違いであろう。議会で政策と外交戦略を構築することは容易ではない。

 筆者は同調査会から捕鯨の在り方への説明を求められ、また水産外交の在り方を問われた。

 外交とはその名の通り、「外」との「交わり」である。そして相手国に相対する際には、自国の持っている内容を十分に誠意をもって説明することである。すなわち、対話である。しかし最近の外交を見るにつけ、その基本中の基本である対話を実行しているのであろうかと思う局面が多過ぎる。オーストラリアから提訴され敗訴した南極海で実施された調査捕鯨に関する国際司法裁判所での対応や、IWCと国際捕鯨取締条約からの脱退を見ると、誠意をもっての全力投入からは程遠い。米豪などと十分に話しているとは思えず、国際司法裁判では、判決の前に相手を軽んじて、油断して敗訴した。また、国際捕鯨取締条約からの脱退では、出席したIWC総会で相手は何を言っても聞く耳を持たないとみると、すぐに対話を放棄し脱退した。

 従って調査会では「誠意を尽くして、相手国が反捕鯨国であろうと、親捕鯨国であろうと、中間国の中国や韓国であろうと、常日頃から話し合いを行い、自国の立場を説明することが外交の基本である」と語った。

 そして、さらに水産外交では「科学的根拠を柱に、それを丁寧に粘り強く主張することだ」と述べた。それにつけても科学的な情報の蓄積とそれに基づく政策の形成と実行が大切である。であるならば、科学的調査すなわち調査捕鯨の重要性がますます高まる。調査捕鯨を実施する権利は国際捕鯨取締条約の第8条に根拠があるが、日本は条約から脱退してその根拠を失う失態を犯した。

海洋生態系悪化の懸念

 これから将来は地球温暖化や海洋酸性化が進み、海洋生態系の悪化が懸念される。南極の気温が20度を超えた。南極海も海水温が上昇している。豪大陸も南極海の寒流が弱くなって魚類の資源の悪化が生じている。このような南極海生態系の変化を知るには、同海域での調査捕鯨による新データ収集と蓄積がますます重要になった。しかし、それを日本は放棄した。

 従って、今から2002年にアイスランドが国際捕鯨取締条約とIWCに再加盟する際に行った前例に倣い、IWCが1982年に科学的根拠を無視して採択した商業捕鯨モラトリアム(一時停止)には拘束されないとの条件を付けて同条約に復帰すべきだ。海洋生態系の変化と温暖化の影響を見るために、変化の影響を受ける鯨類を捕獲しての科学調査の実施が重要である。また、商業捕鯨もモラトリアムに拘束されずに実行できる。

 このように筆者は、国益と人類の将来のために日本は同条約とIWCに復帰すべきだ、と調査会で強調した。

(こまつ・まさゆき)