イスラエル総選挙、ネタニヤフ氏支持派過半数ならず
連立協議は難航か
1年間で3度目となるイスラエル総選挙(国会定数120)が2日に実施された。ネタニヤフ首相が率いる与党の右派リクードが首位に立ったものの、首相支持派の右派・宗教勢力の獲得議席は過半数を確保できておらず、次期政権樹立に向けた連立協議は難航が予想される。今回もまた連立協議が不調に終われば、4度目の選挙に向かうという異常事態となる。(エルサレム・森田貴裕)
ガンツ氏に組閣要請も
新型コロナウイルスへの懸念が広がる中で行われた今回のイスラエル総選挙では、感染者に接触した可能性があり自宅などで隔離措置が取られている有権者向けの投票所が国内各地に設けられ、投票率は71%で過去2回の選挙を上回った。
選挙結果は、ネタニヤフ氏の与党の右派リクードが36議席を獲得して第1党に返り咲き、ガンツ元軍参謀総長が率いる中道野党連合「青と白」は33議席で第2党となった。第3党の「アラブ連合」は15議席を獲得し勢力を伸ばした。
ネタニヤフ氏は選挙戦で、トランプ米大統領が1月下旬に発表したユダヤ人入植地の存続を容認するなどイスラエル寄りの中東和平案を自身の外交実績としてアピールした。収賄罪などで起訴され、今月17日に初公判に直面していることが足かせとなり苦戦していたが、選挙戦終盤では、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、イスラエル政府は日本や韓国などから渡航してきた外国人の入国を認めない措置を含む厳格な対応を取り、国内の感染拡大を抑制。危機管理の強さを見せつけた。その結果、これまでのところ市中感染は発生しておらず、こうした迅速な政府の対応が有権者の多くに評価されるなどし、ネタニヤフ氏の支持率の回復につながったとみられる。
一方、ネタニヤフ氏の退陣を要求してきたガンツ氏は選挙後の演説で、選挙結果に失望したと述べたが、敗北は認めなかった。ガンツ氏は、ネタニヤフ氏が今後、首相になることを認めない法案を提出している。首相の任期は2期までとし、起訴されている者の連立政権発足をできなくする法案だ。極右「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン氏は、この法案を支持すると表明した。この流れで、ガンツ氏を推薦する声が多くなれば、ガンツ氏が組閣を要請される可能性も出てくる。
イスラエルでは1948年の建国以来、単独で議席の過半数を獲得した政党はなく、次期政権は選挙後の連立協議で決まる。
リブリン大統領が次期政権樹立に向けて、議席を得た全ての政党から意見を聞いた上で、最も議席数が多い政党の党首あるいは連立協議をまとめる可能性の高い議員に組閣を要請する。期限は17日までだ。
昨年4月の総選挙では、右派・宗教勢力が国会の過半数を占め、ネタニヤフ氏に組閣が命じられた。従来の右派連立政権を樹立できるかに見えたが、同勢力内のリーベルマン氏が、ユダヤ教の戒律を厳格に守る超正統派ユダヤ教徒に対する徴兵免除など優遇政策の撤廃を求め、連立政権入りを拒否。ネタニヤフ氏は連立政権の発足に失敗し、議会を解散し選挙のやり直しとなった。9月のやり直し選挙後では、ネタニヤフ氏とガンツ氏がそれぞれ組閣を試みたが、いずれも過半数の支持を得られずに組閣を断念、3度目の選挙へと進むことになった。
今回の選挙でも、ネタニヤフ氏を支持する右派・宗教勢力が58議席、ガンツ氏の「青と白」など中道・左派勢力は47議席で、いずれも過半数の61議席には及ばない。
アラブ連合がガンツ氏の連立に参加するかは不明だが、仮に連立となれば62議席となり政権交代だ。過半数を超えた連立政権ができなければ、これまでと同様に議会を解散し、またもや総選挙となり、振り出しに戻ることとなる。ガンツ氏とリーベルマン氏は、何としても4度目の選挙は阻止するとして政権交代を目指す。