米国との関係深めるポーランド
日本大学名誉教授 小林 宏晨
安保上の代え難い支えに
米軍基地拡大へ努力惜しまず
1989年以降、ポーランドとアメリカの間には急速に特別の関係が展開された。その中核的内容は、安全保障および防衛保障的協力とアメリカの安全保障に対するポーランドの信奉である。しかし、オバマ政権下では、アメリカの東欧に対する戦略的無関心が散見されたが、その後のトランプ政権下では、この修正が行われた。この修正はポーランドに有利に作用した。
この修正の中身は、アメリカ、つまりトランプ政権が東欧地域にも積極的に関与し、この地域におけるロシアと中国の影響力行使の封じ込めを試みていることだ。ポーランドはアメリカの新たな戦略的路線変更を自己に有利に利用し、アメリカの支援を裏付けとして、例えば欧州連合(EU)における自己の地位向上を試みている。
対露エネ依存も是正へ
アメリカは、現在に至るまでポーランドの安全保障政策の不断の推奨国にとどまっている。ポーランドにおけるアメリカの地位は、ポーランド政府によるユダヤ人の扱いに対してアメリカの圧力が行使された時も、またポーランドがオバマ政権に失望した時も揺らぐことはなかった。
ポーランドはアメリカとの関係で自己に有利な地位をさらに強化する努力を惜しまない。具体的には自国におけるアメリカ軍基地の拡大努力である(アメリカ軍基地を「トランプ要塞」と命名。アメリカ軍駐留費用の一部負担。軍事支出の国内総生産の2%達成)。
アメリカは、ポーランドにとって掛け替えのない安全保障上の支えと考えられている。とりわけポーランド与党「法と正義党(PiS)」は、東欧におけるロシアとの限定的エスカレーションをアメリカが甘受する蓋然(がいぜん)性には強い信頼を置いている。ポーランドはさらに、防衛力と抑止力の強化政策に際して、アメリカに大量の兵器の発注をしている(例えばF36A、32機)。
ポーランド・アメリカ間の軍事協力の重要な要素は、定期的に行われる両国軍の共同軍事演習である。ポーランドは、さらにこれまでの4500人のアメリカ軍に1000人の増派受け入れと、その部分的費用負担を申し出ている。いずれにせよポーランドは、アメリカにとって北大西洋条約機構(NATO)の優等生と見做(みな)されることは間違いない。
ポーランドは、さらにロシアへのエネルギー依存の是正を目的として、アメリカからの液化ガスの輸入契約を締結し、さらに東欧へのエネルギー中継機能までも引き受けた。さらに原子力発電の領域でもアメリカ側の投資を含めた両国の協力関係が予定されている。
ポーランドがそのアメリカとの関係を深化させる一方、ドイツでは一般的にアメリカの、そして特にトランプ政権の信頼性に対する疑念が増大している。ロシアの欧州への、とりわけポーランドへの関与の目的は、アメリカの影響力強化の阻止にある。この展開をドイツは憂慮している。
なおロシアに対するドイツの外交姿勢が抑止と緊張緩和のバランスの中に見られるのに対し、ポーランドのそれは、緊張緩和に対する抑止の優勢の中に見られる。その限りでポーランドの外交姿勢はアメリカのそれに接近している。
変わらぬ米国への信頼
アメリカを優先させる政策は、当面はポーランドの安全保障政策の不動部分を構成している。ポーランドの安全の唯一の保証者としてのアメリカへの信頼は、ポーランドの対外・安保政策上の合意事項である。この基本姿勢は、可能な政変が起ころうとも、変わらないと考えられる。
しかもアメリカが近い将来、ロシアと中国を封じ込める政策の転換を試みても、アメリカに対するポーランドの基本姿勢は変わらないと予測される。従ってドイツには、安全保障・防衛政策問題において不断にポーランドとの対話と協力関係を維持する努力が勧められる。
(こばやし・ひろあき)