2020年の日本外交を展望する
元日朝国交正常化交渉日本政府代表 遠藤 哲也
日米同盟強め中国牽制を
対北も米韓との緊密協力必要
2019年も相変わらず、激動の年であった。海図のない、不安定な世界であったが、日本外交は何とかやってきたというより、良くやってきたのではないか。長期政権と安倍晋三総理の積極的な外交姿勢もあって、国際社会で日本の存在感は増してきた。しかし、積み残し・先送りした問題も少なくなく、来年の世界の情勢はおそらく今年よりは一層、激動・流動化が予想されることもあり、日本外交にとって試練の年となろう。
楽観視できぬ日米関係
今年のトランプ米大統領の「アメリカ第一主義」を旗印とする米国外交、特に大統領個人の独断専行、衝動的な言動、安全保障と経済、その他をひっくるめる取引スタイルに世界が振り回された一年となった。来年は大統領選挙の年だけに、内政指向が一層強まり、外交が強く影響を受けることが予想される。
今年の日米関係はトランプ・安倍両首脳間の個人的な関係もあってか、大きな波乱なく終始したが、来年については問題が各論に入ってくるので、楽観視はできない。問題の一つは北朝鮮の核・ミサイルであり、北朝鮮の態度に対して、米国がどのように対応するかは日本の安全保障に大きく関わってくる。安易な妥協はデカップリングを招くし、強硬な姿勢も問題であり、いずれにせよ、北朝鮮問題については日米間、日米韓の間が緊密に協議し、協調することが絶対に必要である。
今一つは通商問題である。今年の日米貿易協議・協定では先送りされた自動車関係の関税撤廃をどう実現するか。そして通商協議の第2段階として、文字通りのウィンウィン関係を築き上げ、さらに両首脳の関係を活用して、国際秩序のイニシアチブが取れるよう、連続的な提案をしていかなければならない。
日韓関係は1965年の国交正常化以降、最悪の状態にある。慰安婦問題、徴用工、輸出規制問題、韓国海軍艦艇によるレーザー照射など、日韓摩擦は枚挙にいとまがない。特に摩擦が安全保障分野に拡大していることは由々しきことである。一衣帯水の日韓は運命共同体であり、現状を何とか改善しなければならないが、文在寅政権の下では容易なことではない。最高首脳レベル、政府レベル、民間レベルでの接触を増やし、98年の日韓パートナーシップ宣言のレベルに達したいものである。
日本の北朝鮮外交の中・長期目標は国交正常化であるが、その第1段階は核・ミサイルと拉致問題の処理である。拉致問題については、被害者・関係者が高齢化しており、早急な処理・解決を必要とする。ただ、この問題は最終的に金正恩委員長の胸三寸にあるので、日朝首脳会談に懸かっており、早急な会談の開催が望まれる。そのためには、水面下での両国の接触を軸に、周到な事前準備が不可欠である。核・ミサイルについては、年末の北朝鮮労働党中央委員会総会および金委員長の新年の辞、それに基づく北朝鮮の出方、トランプ大統領の反応が注目される。
日中関係は、2012年の尖閣諸島の国有化以降、悪化したが、次第に改善の方向に向かいつつあるのは歓迎すべきである。しかし、チベット、ウイグルなどの少数民族への圧迫、香港問題など、内政問題とはいえ、民主主義、人権、法治の観点からは由々しき事態である。特に軍事・外交面では、中国は潜在的な最大の脅威である。「中華民族の偉大な復興」を旗印に東シナ海、南シナ海への強引な進出を試みており、さらに「一帯一路」も同様である。米露新冷戦、米中覇権争いの中で、中露の接近は要注意である。波乱含みの情勢の中で、日本外交の主軸は日米同盟の強化であるが、合わせて中国を牽制(けんせい)する外交的取り組みが必要である。「自由で開かれたインド太平洋戦略」はその一つであり、インドとの協力関係が良好なのは望ましい方向である。
領土問題で焦りは禁物
日露関係で残された戦後処理の最大の外交事案は、北方領土返還を含む平和条約の締結であり、安倍政権も最優先外交課題の一つとして、プーチン露大統領との個人的な関係を重ねつつ努力してきたが、残念ながら、その目途(めど)は立っていない。歯舞、色丹の2島返還論に舵(かじ)を切ったが、日露双方の立場には大きな隔たりがある。いずれにせよ、領土問題のような外交は、期限を決めたり、焦ったりすることなく、粘り強く交渉していく他ない。(えんどう・てつや)
(遺稿)
遠藤哲也氏は今月18日、病気のため急逝されました。ご冥福をお祈りいたします。






