小規模シンクタンクに支援を

エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

価値ある独立性と柔軟性
組織化で生まれる相乗効果

ロバート・D・エルドリッヂ

エルドリッヂ研究所代表 政治学博士
ロバート・D・エルドリッヂ

 シンクタンクの重要性や、官僚機構に代わる市民団体の拡大について、過去25年ほどの間、検討されてきたが、日本のシンクタンクは十分に役割を果たしておらず、停止状態にある。「シンクタンクと市民団体プログラム」が毎年発表する「世界有力シンクタンク評価報告書」によると、日本のシンクタンクのうち、「ベスト独立系シンクタンク」にランクインしているのは一つだけ。10年足らず前まで世界第2位の経済大国だったにもかかわらず、この結果だ。その他の最新の調査結果も悲惨なものだ。

大規模研究組織に失望

 残念ながら、国内で広く知られ、大規模で、潤沢な資産があり、尊敬されているようなシンクタンクですら、世界やアジアと比較すると見劣りする。率直に言うと、日本の主要シンクタンクには、数も少なく、大変失望している。

 全て東京に所在し、政府や企業から情報を得ている。これはワシントンやニューヨークに集中する米国のシンクタンクと似ている。しかし、力と富、コネと情報が集中しているにもかかわらず、仕事ぶりはパッとしない。

 そのほとんどで指揮を執っているのは、高官・外交官経験者などのいわゆる「天下り」、または学術、マスコミ、財界のリーダーだ。用心深く立ち回る術(すべ)を知り、政治的な駆け引きに優れ、組織の顔になることに適しているのかもしれないが、調査や考察にも優れているとは限らない。シンクタンクの人々の多くは首都圏の主要大学の出身者であり、社会や研究分野の幅広い考え方を常に体現しているわけではない。

 それでもいい面もある。これらの一定の目的をもって意図的にテコ入れされた少数のシンクタンクに対して、資金、人脈、アクセス、立地、職員、権威など全ての面で、大規模シンクタンクに劣っているが、独自の思考や調査を行っている規模の小さなシンクタンクや個人事務所が何百もあることだ。

 過去20年程度、現在の仕事を含めて、大規模、小規模、両方のシンクタンクと関係したり、所属したりしてきた。経済界と政府がより支援すべきなのはこうした小規模シンクタンクだと考えている。大規模シンクタンクだけ支持していては、じわじわと広がる効果は期待できない。だからこそ、小規模シンクタンクはより多くの資金やプロジェクトが与えられることで、成長する機会が与えられるべきだ。

 さらに、小規模シンクタンクの価値は独立性と柔軟性にある。資金提供者らはこうした小規模シンクタンクに対し、できる限り上からの干渉を避け、考える自由を最大限に与えるべきだ。集団思考は組織や社会にとって死を意味する。

 できれば、大企業や政府に頼る必要をなくすために、これらの小規模組織が結集して、「日本小規模シンクタンク個人事務所協会」「日本個人シンクタンク・オフィスネットワーク」のような組織をつくってほしいと思っている。

 国内には100余りのシンクタンクがあると言われている。2014年のある調査では286の政策研究組織があるとされている。筆者の経験によると、個人または零細の事務所を含めれば実際にはその何倍もある。こうした事務所はそれぞれの分野で最先端の重要な仕事をしている。

 上記の協会やネットワークの利点の一つは、専門分野の垣根や地理的な制約を越えられるところにある。半年ごとの大会に加えて、分野や地域ごとに分けた月例または四半期ごとの会議を開くことで、大きな相乗効果が生まれることは確実だ。興味深い調査をしながらも、孤立し、注目されない傾向にある小規模組織の士気を高めるのはもちろん、そこで生まれる協同と革新を通じて、自分たちが暮らし、働く地域のコミュニティーの発展にも貢献できる。

若者の職業選びに寄与

 わずかな代表的シンクタンクが首都圏にあるよりも、健全で生き生きとしたシンクタンクが国全体にあれば、若者がインターンシップを行う機会や就業機会も増える。就職する際に東京に出ずに地方に残る選択肢を与えてくれる。また、若者にとっては研究が評価されるきっかけにもなり、職業選びにも寄与することになる。また、政策決定や提案への大きな市民参加が期待できる。

 政府と密接につながっておらず、東京に限定されず、従来とは違う多様なオピニオンを提案できる国内の数百の小規模シンクタンク、個人事務所、中小企業は、日本再生や新しい令和時代における新しい指針のカギを握っているのかもしれない。