再認識される消防団の必要性

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久

災害時の共助の中核に
課題は団員の減少と高齢化

 火災の消火活動や、全国各地で地震や風水害(気象災害)などの災害が起きた場合、消防団が出動する。今後、首都直下地震や南海トラフ地震などの大地震(大震災)が数十年以内に起きることが懸念されている中、消防団を中核とした地域防災力の向上が求められている。消防団員は地域住民で構成され、普段は別の職業を持ち、身分は非常勤の特別職地方公務員である。

日頃の活動で犠牲者減

 大規模な災害が起きると、自衛隊や警察、消防だけでは全てをカバーすることはできない。これらの組織が公助の役割を担うとすれば、消防団は地域社会において共助の中核を担うことになる。

 ところが、近年、消防団を取り巻く環境は厳しさを増している。そして、さまざまな課題が指摘され始めている。その中の代表格な課題が「消防団員の減少」と「消防団員の高齢化」である。消防団は、団員がいて初めて機能する組織である。団員がいなければ、ポンプ車や消火栓は宝の持ち腐れとなる。日本は少子高齢化、地方では過疎化に突入しており、このままの状態が続けば、消防団への人材供給ができなくなる恐れすらある。ライフスタイルの変化・多様化も団員の加入に影響している。

 昨年は、西日本豪雨や台風21号により甚大な風水害が起きた年だった(大阪府北部地震や北海道胆振東部地震なども起きた)。令和の時代に入っても風水害が続いている。8月には九州北部を襲った豪雨、9月には千葉県を中心に被害を出した台風15号、10月には東海、甲信越、関東、東北地方に被害を出した台風19号、そして、2週間後には、台風21号と低気圧がもたらした豪雨により、台風15号の被害の爪痕が残る千葉県に大規模な浸水や土砂災害が起きた。そのたびに消防団が出動し、全力で活動している。台風19号により長野県の千曲川が決壊し、長野市では多数の住宅が浸水・全半壊したが、西日本豪雨(岡山県倉敷市)のときよりも犠牲者が少なかった。過去にたびたび起きた千曲川の氾濫(はんらん)の経験から、消防団や自主防災組織が中心となって、定期的に住民が避難訓練を実施していたことが犠牲者を少なくした。

 消防団不要論があった時期がある。市町村消防の常備化が進む中、消防団は別に無くてもよいのではないか、前時代的なものであるとの雰囲気も一部にはあった。

 だが、そのムードを一変させたのが、平成7年1月17日に起きた阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)である。この震災は、建物の倒壊による生き埋めが多い地震だったが、地域の実情に詳しい消防団員は、生き埋めになった被災者がどこで寝ているかを把握していた。このことが救助率の高さに繋(つな)がった。その結果、消防団不要論はなくなり、逆に必要性が改めて認識されるようになる。

 平成26年11月22日午後10時8分ごろに長野県北部を震源とする長野県北部地震が起きた。震度5強という強い揺れに襲われた長野県白馬村では40棟以上の家屋が全半壊しながら、消防団員と住民らによる迅速な安否確認と救助活動が功を奏し、死者をゼロに抑えたことで、「白馬の奇跡」とも言われている。

防災力低下に歯止めを

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、津波により市町村の行政事務がシステムダウンする事態となった自治体があった。このような場合、被災者救助を行うのは自主防災組織と連携する消防団しかいない。

 現在の消防団の出動は、平常時の消防活動よりも、災害時の活動の比重が多くなりつつあるが、共助の中核である消防団の衰退は、共助体制そのものの弱体化に繋がり、地域防災力の低下を意味する。だからこそ、「消防団員の減少」「消防団員の高齢化」は何としても歯止めを掛けなければならない。

 一方で、消防団員はときとして、危険と隣り合わせでもある。東日本大震災では254人の死者と2人の行方不明者を出していることも知っておく必要がある。

(はまぐち・かずひさ)