「認知症時代」とどう向き合うか
メンタルヘルスカウンセラー 根本 和雄
三大生活習慣を見直そう
「生きがい」持ち脳を活性化
超高齢化社会を歩み続けるわが国は、2019年に65歳以上は3588万で、総人口に占める割合は28・4%である。また、内閣府の推計によれば、60年の日本の総人口9284万人のうち認知症の有病者数は1154万人と試算し、8人に1人が認知症という時代がやってくる。やがて迫り来る「認知症時代」にどう向き合い、対処したらよいのか考えてみたい。
誰でもがなり得る疾患
これまで長らく「痴呆(ちほう)」といわれていた呼称を「認知症」と改めたのが2004(平成16)年のことである。また、1972(昭和47)年には、痴呆老人問題を世に問うた小説『恍惚(こうこつ)の人』(有吉佐和子著)は、大きな反響を集め、その年だけで140万部の超ベストセラーとなった。これは、著者・有吉佐和子のジェロントロジー(老年学)への深い洞察によるものである。その書名は、頼山陽の“老いて病み恍惚として人を識(し)らず”(「日本外史」)によると著者は言う。
さて、「認知症」とは「獲得した知的機能が後天的な脳の器質性障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態で、それが意識障害のないときにみられる」とされている。つまり、見る・聞く・話す・覚える・考えるという知覚や知的機能の低下を意味し、感情領域を含めないのが一般的である。その障害が、ある一定期間持続し(少なくとも6カ月以上)、日常の暮らしに不都合が生じた状態を「認知症」と呼んでいる。
今、わが国の85歳以上の40~80%が認知症を発症している現状であり、従って認知症は誰でもがなり得る疾患であり、同時に、老化に伴う生活習慣病の一つでもある。それ故に、日常の生活習慣を見詰め直すことにより、認知症を防ぐことが可能になる。今日、医学の進展は目覚ましく、とりわけ脳科学の分野には著しいものがあり、最近では認知症の中で治療・回復可能な「可逆性認知症」と呼ばれているものもある。
さて、「認知症」を予防するために、日々の暮らしの中で脳の働きと深く関わっている三大生活習慣、すなわち「食事」「睡眠」「運動」について考えてみよう。
まず、食事の面から認知症の予防については、2015年アメリカのラッシュ大学医療センターで、アルツハイマー型認知症を予防する食事法として「マインド食」が発表された。それによると、肉やバター・チーズなどの動物性脂肪を控えて、抗酸化物質が豊富な野菜やベリー類、ナッツ類、豆腐、さらにオリーブ油など神経細胞の働きに良い食材を摂取し加えて、減塩することが望ましい。また、オランダの疫学調査では、魚を食べない人は、食べる人に比べて、認知症発生率が3倍高いという報告がある。
次に「睡眠」は“脳の休養時間”で質の良い睡眠(アミロイドβ(ベータ)をためない)は1日6~8時間で、30分以内の昼寝(寝過ぎに注意)も効果的であるという。また、成長ホルモンがよく出てくる時間帯は午前2時頃から4時頃にピークになる。従ってその時間には熟睡することが望ましい。近ごろ、日本人の約4割が睡眠不足(6時間未満)で深刻な不眠状態に陥っているという。
さらに、「運動」について述べれば、歩行時間と認知症の関連について東北大学の研究グループは、宮城県の65歳以上の住民1万3900人を対象に調査した結果、「1日の歩行時間が長いグループほど認知症の発生率が低い」という有酸素運動効果の報告がある。
これらのことから、日常の生活習慣で脳神経を活性化する「三大生活習慣」は、認知症の予防および改善・回復に極めて重要ではないかと思われる。
尊厳を持ち接する必要
それと同時に、重要なのが「生きがい」を持つということ。ネガティブな感情を前向きに変える(サイモントン療法)ことで何かやりたいことがあれば“人生に張り”があり脳が活性化して生き生きしてくるのである。
そして重要なことは認知症の人に、一人の人間として尊厳を持って接することが大切ではなかろうか。それには、「認知症」を正しく理解し、一人ひとりと向き合い、その人らしさを中心に感情をしっかりと受け止め、人間的なアプローチを丁寧に続けることではなかろうか。その対処法として大事なことは、イギリスのトム・キットウッド教授(ブラッドフォード大学)の次の言葉ではないかと思う。“一人の人として認知症を見ることである”(1992年) と。
(ねもと・かずお)






