ロシアがBRICS維持に全力
ロシアがメンバーの一角を占める新興5カ国(BRICS)の先行きに、不透明感が漂っている。親米路線を打ち出すブラジルのボルソナロ政権が米国との関係を強化する中で、BRICSメンバーとしての立ち位置に変化が生じているためだ。クリミア問題などにより国際社会で孤立するロシアは、BRICS維持に躍起となっている。
(モスクワ支局)
ブラジルの親米路線に懸念
ベネズエラめぐり各国に相違も
2000年代以降に顕著な経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国。投資銀行ゴールドマン・サックスの経済学者ジム・オニール氏が、これら4カ国の頭文字からBRICと呼称し、広く使われるようになった。
後に南アフリカが加わりBRICSとなり、国際的な発言力を高めるため連携を強めた。09年にロシアのエカテリンブルグで初の首脳会議を開催し、14年にはインフラ融資を行うBRICS開発銀行を設立した。
5カ国を合わせて国土面積で世界の約30%、人口で約45%を占め、天然資源も豊富だ。先進国を大きく上回る経済成長を背景に5カ国が結束を強めることで、影響力を拡大する構えだった。
しかしその後、ロシアやブラジルがマイナス成長となり、中国の経済成長にも陰りが見えてきた。高成長を続けるインドとの差も広がり、BRICSの枠組みにほころびも見え始めていた。
そのような中で今年1月、ブラジルでボルソナロ大統領が就任した。ブラジルでは03年以降、左派が政権を握っていた。16年に保守派のテメル大統領が就任したものの、汚職疑惑などから政治の混乱が続いていた。
ボルソナロ大統領は親米路線を打ち出し、政治・経済面だけでなく軍事面でも米国との関係を大幅に強化。さらに3月の訪米時にトランプ米大統領が「ブラジルはNATO(北大西洋条約機構)の同盟国になるだろう」と、NATOの域外協力国になることを支持する衝撃発言を行った。
トランプ大統領の発言の真意は分からず、また、南米のブラジルがNATOの域外協力国になることには、フランスなどからも疑問の声が上がった。しかし、BRICS首脳会議参加国の一角がNATO協力国になるとすれば、BRICSの枠組みそのものを吹き飛ばしかねない。
さらに、ベネズエラ情勢をめぐりボルソナロ大統領は米国と協力し、フアン・グアイド国会議長を暫定大統領として支持することを表明したのだ。
反米のマドゥロ大統領と、親米のグアイド議長が対立し、混迷を深めるベネズエラ情勢をめぐり、ロシアは中国などとともにマドゥロ大統領を支援してきた。
次期BRICS首脳会議は今年11月にブラジリアで開催することが決まっていた。ロシアのラブロフ外相は7月26日、リオデジャネイロで開催されたBRICSの外相会合で、ボルソナロ大統領がBRICS首脳会議を開催する準備があることを確認した。もっとも共同声明ではベネズエラ問題について触れておらず、参加国間に意見の相違があることを示した形で終わっており、BRICSの枠組み維持に不安があることを示した形ともなった。
このためロシアは、同国が主導する形で9月の国連総会に合わせBRICS外相会合を開催し、改めて参加国の連携を確認。その上でロシアは国連総会で、ブラジル、インド、南アフリカが国連でより重要な役割を果たすことに期待を表明した。
常任理事国入りを目指すブラジルにとって、ロシアや、同じくBRICSの一員である中国などとの関係強化が有益であることを示して見せた形だ。
世界の国内総生産(GDP)に占める割合は、中国が7・7%、インドが5%、ブラジルが2・5%、南アフリカが1・9%、そしてロシアが1・3%。ジム・オニール氏がBRICとの呼称を使った頃の経済ポテンシャルは、すでにロシアにはない。さらにクリミア併合は経済制裁を招いただけでなく、ロシアを国際社会から孤立させる結果となった。だからこそロシアにとって、BRICS首脳会議のメンバーであることで受ける利益は増している。ブラジルを引き留めることで、その枠組みの維持に全力を注ぐ構図だ。






