【社説】彭帥選手問題 中国の幕引き許さぬ追及を
中国の著名女子プロテニス選手、彭帥さんが、元共産党最高指導部メンバーに望まない性的関係を強要されたと告発した後、当局の監視下に置かれているとみられる問題では、都合の悪い言論を徹底的に弾圧しようとする共産党政権の体質が浮き彫りとなった。
習近平指導部は幕引きを急ぐ構えだが、国際社会は追及の手を緩めてはならない。
前副首相の性暴力を告発
彭さんは女子テニスの四大大会をダブルスで2度制した強豪選手だ。今月初めに中国版ツイッター「微博」で張高麗・前筆頭副首相に望まない性的関係を強要されたことを明かした後、安否不明となった。
告発文は即座に削除され、中国メディアは黙殺。だが告発文はインターネット上で拡散し、テニス界をはじめ国際社会から懸念の声が上がっていた。女子テニスの大坂なおみ選手もツイッターで彭さんの安否を心配するとともに「いかなる場合でも検閲は許されない」と投稿が削除されたことを批判した。
一方、国際オリンピック委員会(IOC)は、バッハ会長が彭さんとテレビ電話で会話したと発表。IOCによると、彭さんは北京の自宅で安全に元気で生活していると説明。今はプライバシーの尊重を望み、友人や家族と過ごしたいと話した。
しかし、テレビ電話には中国オリンピック委員会の李玲蔚副主席も参加していた。彭さんが張氏の性暴力などについて発言しないか監視したとみられており、この問題で声を上げている女子テニス協会(WTA)が、テレビ電話で懸念は解消できないと断じたのは当然である。
北京冬季五輪が約2カ月半後に迫る中、バイデン米大統領は中国の人権問題を理由に政府高官らの派遣中止を検討中と表明している。彭さんの問題で国際的な風当たりが強まる中、北京五輪成功を目指す点で一致するIOCと中国当局は、彭さんの肉声を発信して早期沈静化を図った形だ。
だが、IOCの姿勢は中国の人権弾圧を容認したも同然である。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を目指す」と唱える五輪憲章に背くものだと言わざるを得ない。中国とIOCが幕引きを図ろうとしても、国際社会の疑念や批判は強まるばかりだ。
非暴力の反政府活動を続けた中国の民主活動家で、ノーベル平和賞を受賞した作家の劉暁波氏は、国家政権転覆扇動罪で投獄された。末期の肝臓がんと診断され、海外での治療を希望しても、中国政府は許可せず、劉氏は国内の病院で亡くなった。中国による人権弾圧の最たる例である。
現在のところ、彭さんの状況はこれほどひどくはないとしても、今後どうなるかは中国共産党政権の判断次第だ。国際社会は彭さんの安全確保と真相究明を中国に強く迫る必要がある。
五輪ボイコットも検討を
日本はこの問題について静観しているが、中国の人権弾圧を看過することはできないはずである。
米国などと歩調を合わせ、北京五輪ボイコットも検討すべきではないか。