万策尽きた翁長沖縄県知事

西田 健次郎OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

裁判連発し県税を浪費
自民はロマンある具体案示せ

 沖縄・南城市長選はまったくの想定外で現職が負けた。

 世論調査で保守系現職と革新系新人が拮抗(きっこう)していることを知っていたが、負けるはずのない選挙であった。連日、応援で走り回っていただけに、わずか65票差は口惜しい。自民党県連は徹底的に敗因を総括しなければならない。

 結果にめげている暇はない。投開票日の翌日から、仲間、同志と名護市に入り、親戚、同級生、従来の反主流派票の掘り起こし作戦に参戦している。選挙事務所や支援団体の詰め所の人々の目つきは殺気立っており、緊迫感がある。事務所幹部、スタッフが殴り合うぐらいになる選挙は勝てるのだ。

 さて、わが国、アジア、そして、世界の平和構築が深刻な事態に迫っている現実を直視すると、いよいよ米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設が可能か否かが、沖縄県のみならず全国民の喫緊の課題として眼前にある。

 筆者は、「オール沖縄」の欺瞞(ぎまん)が姿を現して以来、今日まで、その論理・主張の矛盾と戦略戦術の破綻を厳しく批判してきた。

 翁長雄志知事は、勝てるはずのない裁判を連発し県税を浪費しているが、それは今年11月の知事選までの間だ。地元左翼メディアは、翁長知事が米軍、日本の国家権力と戦っているロビン・フッド(結果はドン・キホーテ)的英雄であるかのように大合唱しているが、パフォーマンスでしかない。

 公有水面埋立法の手続きによる埋め立ての行政手続きは4年前に国、県、名護市の“自己決定権”によって終了しているのだ。翁長知事は、1609年の薩摩侵攻以来の琉球の近代史は、大和人(ヤマトゥンチュー)に虐(いじ)められ、ばかにされ、果ては米軍基地の現在のありさまだとし、本土大和人への恨み節のウチナー(沖縄)アイデンティティーを錦の御旗にして辺野古反対だけで人気を維持し、11月の知事選戦術に利用しているだけだ。これは共産党の戦略と同一だ。

 翁長知事は、思想運動と行政運営をはき違えている。本人は“保守”と言っているらしいが、個人の思想と選挙運動に行政行為を利用してはならない。いわゆる行政は、中立・安定・継続の三大原則を順守しなければならない。

 埋め立て承認を「必ず撤回する」と基地反対派の集会で豪語してきたが、なぜ3年余もできないのか。撤回する合理的理由がないし、単なる首長の思想と選挙勝利のためであるなら、その損害賠償である何百億円は知事個人が負担しなければならない。

 普天間飛行場の代替施設建設(名護市辺野古移設)に必要な資材運搬のための本部港(本部町)、奥港(国頭村)をなぜ使用許可するのか。辺野古のサンゴが大事というのであれば、那覇空港滑走路増設工事の海域、那覇軍港移設先の浦添西海岸の広大のイノー(礁池)、さらには、中城湾港泡瀬地区(沖縄市)のサンゴはどう保全するのか。左翼グループからの翁長知事への批判のボルテージは上昇している。

 さて、翁長知事はどうするのか。県民投票で辺野古反対派が多ければ、民意として撤回の理由にするだろう。しかも、知事選と同日投票にしようとする、こすい作戦を共産系の弁護士が騒ぎ出し、地元メディアの論壇をにぎわしている。その内容は、間接民主制など勉強不足とも言える情緒論だ。しかし、オール沖縄の大幹部で元裁判官の仲宗根勇先生が、住民投票は法律上も最高裁の判決を覆すのは不可能と、昨年12月27日付の沖縄タイムスの論壇で指摘しているように、国への影響力もない。

 仮に、県議会で条例が7億円余の県税を伴って成立しても、市町村選管への強制力もない。そもそも、翁長知事は提案せずに逃げているが。共産系の弁護士は、市町村が拒否できないような法律を整備するとあおっている始末だが、それには10年は要する。従って、県民投票と騒いでいる間に辺野古移設は完了してしまう、と仲宗根氏は危惧している。

 これらのオール沖縄の識者の論争や国の動きから見るに、もはや万策尽きてきた翁長知事は、裁判闘争、あるいは、撤回するとうそぶきつつ、意味のない県民投票騒動を起こしているとすれば、それは自らの再選ムードを維持するための姑息(こそく)な演出をしているにすぎない。

 そこで、自民党県連、国会議員に物申したい。

 ▼毎週、毎日のようにトラブルを起こしている米軍用機のメンテナンスを韓国の会社が行っているとの情報があるが、自衛隊でやるようにしたらいい。

 ▼ヘリコプターの窓枠が落下して大騒ぎとなった宜野湾市立普天間第2小学校を西普天間返還跡地などに移設させる。プラスチック製のヘリの装置カバーが落下したとされる(米軍、沖縄防衛局は否定しているが)基地に隣接する保育園もしかりだ。

 ▼北朝鮮の暴走、世界の覇権国家を狙っている中国が終焉(しゅうえん)し、アジアに平和が訪れれば、米軍は当然、撤退する。辺野古代替施設を沖縄に寄贈し、航空自衛隊那覇基地をそこに移転させる。

 具体性とロマンのある提案を堂々と表明すべきだ。今のままでは、自民党は米軍事故のため、生き残れなくなり、絶滅危惧勢力になりかねない。

(にしだ・けんじろう)