尖閣「政策」持たぬ日本政府

エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ

45年間の空白を埋めよ
このままなら軍事衝突不可避

 本稿を書いている6月24日の報道では、中国海警局の「海警」4隻が日本の領海に侵入し、約2時間航行した。これは、今年に入って16回目だ。過去5年間で数百回目になる。また5月中旬、新しい次元あるいは時代に突入した。日本の領海に侵入した中国の公船はドローンを飛ばした。つまり領海侵犯しただけではなく、領空侵犯をした。そのドローンを操縦した中国公船に対して無線で警告したのみならず、ドローンに対しても航空自衛隊は那覇基地所属のF15戦闘機4機を緊急発進(スクランブル)させた。言うまでもないが、ドローンに対する緊急発進は今回が初めてだ。

 当時の報道によれば、「日本政府は中国の挑発行為に対し今後も警戒を強める方針」という。それを聞くと、尖閣問題を研究し、米軍で仕事してきたアメリカ人として、日本政府の尖閣「政策」のなさに一層驚き、心配する次第だ。

 上記のスクランブルの約10日前の5月8日頃、安倍普三内閣総理大臣をはじめ、菅義偉内閣官房長官やその他関係すると思われる閣僚(合計8人)に、日本政府の尖閣「政策」について問い合わせをした。ゴールデンウイークの連休明けの直後で、しかも約50問の質問を送ったために、すぐに返事は来ないだろうと思い、その1カ月後の6月8日に回答の「締め切り」を(勝手ながら)設定した。

 びっくりしたのは、その締め切りに間に合わなかったのではなく、一切返事もなければ、連絡もないということだった。

 ちょうど締め切り3日前の5日にも、中国の公船による領海侵犯事件があった。つまり、このようなことは長年繰り返されている。昨年度、航空自衛隊の戦闘機がスクランブルした回数は対領空侵犯措置を開始した1958年以来、過去最多の1168回だったと政府は発表した。中国機に対する緊急発進はそのうちの73%を占めており、数で言えば851回だ。過去最多だったという。言うまでもなく、それは尖閣周辺など南西諸島周辺だ。

 つまり航空自衛隊戦闘機や海上保安庁の巡視船などとの間で緊張が激化している。昨年1月に、戦闘機を那覇基地で増やし、同年4月に石垣で巡視船を増やしているが、消耗戦にすぎない。中国はより近く、経済がより大きいため、このままでは尖閣を自国のものにするのは時間の問題だ。

 だからこそ、尖閣の政策が必要なのだ。なぜ政府は場当たりの対応には限界があることを知らないのだろうか。それを探るために、上記の質問状を送った。スペースの関係で全ては紹介できないが、どのような質問をしたかを簡潔にまとめてみる。

 まず、「尖閣諸島への訪問」関係。なぜ一般市民の訪問が許されていないか。それだけはなく、管轄している石垣市、沖縄県、中央政府の関係者や研究者も訪問できない。また、国会議員や地方議員さえも許されていない。中国との「密約」はあるのか。中国と密約がなければ、「安倍総理やそのスタッフ、閣僚やそのスタッフは尖閣諸島を訪問する予定がありますか。または、上空を飛ぶ予定はありますか。『はい』の場合、それはいつですか。そしてなぜですか。『いいえ』の場合、それはなぜですか」。

 もう一つは建設関係だ。中国、台湾、米国との間でその他の密約はないのか。「例えばヘリポート、港(避難港を含む)、その他を建設しないと約束する秘密の合意はありませんか。同様の合意は、日米の間に存在しないですか。日本は尖閣諸島で何かの建設の予定はありますか。その予定がなければ、なぜでしょうか。日中の間で、尖閣諸島内にある射撃訓練場を使用しない約束はありますか。同様の取り決めは日米の間で存在しないですか。米軍は1978年以来、同射撃訓練場は使用していないのはなぜでしょうか。それ以来、使用したいとの米政府からの打診はありましたか。日本は米国に対して、射撃訓練場使用を控えるよう依頼しましたか。日本は米国に対して、同訓練場の自衛隊による使用を打診していますか。していないなら、それはなぜですか」。

 それ以外の質問もしているが、「実効支配」を強調している政府の尖閣へのアプローチは穴だらけだ。尖閣諸島を含む沖縄返還してから45年を経ているが、その穴は全く埋めていない。何もしないことは政策ではない。

 以前にも本欄(今年2月20日付)で問題提起をしたが、今から国際公共財となる灯台、気象台、ヘリポート、港を造り、公務員を常駐させる行政的に対応しないと、最終的に軍事的に対応せざるを得ない。つまり軍事衝突になる。どちらのコストが安いだろうか。これ以上、先送りができない。政府は日本人ではない私の質問を無視できるが、尖閣諸島に関する無策状態は放置できないはずだ。

 45年前と比べても、たった5年前と比べても状況は明らかに悪化している。日本よ、中国の全ての領土問題の解決方法を見よ。武力行使ないし、力による圧力。次は尖閣諸島だ。

 政府は果たしてこの直面している状況を分かっているのか、専門家として正直疑問だ。私の質問にさえ答えられなかった政府に、しっかりした政策の即時作成と過去45年間の歴代政権の失敗を今後繰り返さないよう強く求めたい。