“不穏な動き”ににらみ利かす
第1部 与那国島・陸自駐屯地(1)
自民党政調会審議役 田村重信緊急リポート
船舶や航空機の情報を5基のレーダーで収集
中国漁船、公船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖に頻繁に出没して領海侵犯するなど南西諸島情勢が緊迫している。このような状況に対応するため、今年3月には、わが国最西端の与那国島(与那国町)に陸上自衛隊の沿岸監視隊駐屯地が新設された。沖縄の本土復帰後、初の自衛隊施設の配置だ。同施設をこのほど訪れた自民党の田村重信政調会審議役が、島の現状をリポートする。
与那国島は、沖縄本島南西約500㌔に位置する。台湾から111㌔、石垣島から117㌔と、両島のほぼ中間に当たる。わが国固有の領土・尖閣諸島からは約150㌔だ。島は周囲27㌔程度で、1時間もあれば車で1周できる。
与那国空港から陸上自衛隊駐屯地までは車でわずか10分足らず。人口が2番目に多い久部良集落の外れの丘の上にある。もともとは与那国馬の牧場の一部だった。
途中、島の中央のインビ岳に5基の監視レーダーが見える。駐屯地へ続く新たに整備された道を抜けると、与那国駐屯地の庁舎や隊舎の2階建ての建物が目に飛び込んでくる。
屋根には琉球赤瓦を施しており、沖縄らしさを存分に発揮。島の景観にマッチしている。
正面玄関には「与那国沿岸監視隊」と描かれた真新しい木の表札がある。
沿岸監視隊は、日本では他に北海道の2カ所があるだけで、与那国が3カ所目だ。
与那国の部隊は、定員ベースで160人。隊長兼与那国駐屯地司令の塩満大吾2等陸佐を筆頭に、隊本部、火器を扱う警備小隊、レーダー班、監視班、さらに、後方支援隊に分かれている。
那覇駐屯地の陸上自衛隊第15旅団の隷下にはなく、熊本の西部方面情報隊隷下にある。情報科職種で、専門知識・技術を要するため、全国から経験豊富な優秀な自衛官が集まっているのだ。
塩満司令は、「与那国沿岸監視隊の主な任務は、付近を航行する船舶や航空機等の情報を地上レーダーを使って収集すること。災害時の支援も実施する」と説明。尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵犯を繰り返していることについて、「不穏な動きに対してにらみを利かせながら抑止力を発揮できる」と意義を強調する。
駐屯地の立地は抜群にいい。南に太平洋、西に台湾、北に東シナ海、東に標高198㍍の久部良岳が望める。さらに、海、山、港、湿地帯に囲まれ、抗堪性にも優れている。「抗堪性」とは、基地やレーダーサイトなどの軍事施設が、敵の攻撃に耐えてその機能を維持する能力のことを言う。
与那国沿岸監視隊の編成完結式は今年3月28日に実施された。2014年4月に起工式が行われて以来、2年弱の歳月をかけて完成した。筆者も式典に参加し、くす玉を一緒に割ったことが、ごく最近の出来事のように思える。
最初に案内してもらった司令室には司令旗が置かれていた。新設の部隊のため、当然ながら表彰状や盾の類いの物はない。その代わりに、ガラスケースには隊員が持参した装甲車や航空機のプラモデル、さらには、2年に1度だけ開催される与那国綱引きの綱がある。沖縄には大綱引きの綱の一部を持って帰ることで福がもたらされるという言い伝えがある。