終幕近づく「トランプ劇場」


2016米大統領選

討論会攻勢も窮地変わらず

 米大統領選までわずか1カ月という局面で、11年前のわいせつ発言をめぐり窮地に陥る共和党候補ドナルド・トランプ氏。「最後のチャンス」と言われた9日の第2回テレビ討論会では、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官を激しく攻め立てた。だが、発言で負ったダメージは大きく、支持率は一段と低下。残された時間で逆転するのは困難な見通しで、全世界を騒がせてきた「トランプ劇場」は終幕が近づいてきた。

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9日、米ミズーリ州セントルイスで開かれた大統領選の第2回テレビ討論会で、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(左)を見詰める共和党候補ドナルド・トランプ氏(AFP=時事)

 共和党内から撤退要求まで噴出するなど瀬戸際に立たされた状況で第2回テレビ討論会に臨んだトランプ氏は、クリントン氏のスキャンダルを厳しく追及する攻撃的姿勢に徹した。

 クリントン氏の私用メール問題に対し、トランプ氏は「私が勝てば特別検察官に調べさせる」と断言。クリントン氏が「トランプ氏のような気質の人物がこの国の法律の責任者でなくて本当に良かった」と述べると、トランプ氏は「そうなったらあなたは刑務所行きだ」と絶妙な切り返しで喝采を浴びた。

 トランプ氏は2005年に「スターなら美人はさせてくれる」などと語ったわいせつ発言を謝罪する一方で、「更衣室の会話だ」と繰り返し強調。逆に、クリントン氏の夫、ビル・クリントン元大統領の女性問題を取り上げ、「私は言葉だけだが、彼は行動に及んだ。米政治史上、これほど女性を虐待した人物はいない。ヒラリー・クリントン氏もこれらの(被害を受けた)女性たちを悪意を持って攻撃した」と主張した。

 トランプ氏が自己弁護に終始し精彩を欠いた第1回テレビ討論会とは異なり、クリントン氏を激しく攻め立てたことは、わいせつ発言で揺らぐ共和党員の支持を取り戻す上で一定の効果があるとみられる。だが、クリントン氏にリードを許す展開の中で、既存の支持層を取り戻すだけでは不十分で、トランプ氏が依然窮地であることに変わりはない。

 NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙が10日に発表した最新の世論調査結果によると、トランプ氏の支持率(主要候補2人に絞った場合)は38%で、52%だったクリントン氏に14ポイントの差をつけられた。残り1カ月弱で2桁の差を跳ね返すのは容易でない。

 共和党内では大統領選と同時に行われる上下両院選を控える議員を中心にトランプ氏への支持撤回や撤退要求が出ており、「トランプ離れ」が加速している。大統領選は捨て、「クリントン大統領」が誕生することを前提に、その歯止めとして議会の過半数維持に徹する戦略に党全体で舵(かじ)を切る可能性もある。

 実際、共和党下院トップのポール・ライアン下院議長は10日、党所属議員との電話会議で、今後はトランプ氏のための選挙運動は行わず、議会多数派の座を守ることに全力を挙げる方針を示した。

(ワシントン早川俊行)