台湾出身者慰霊する「台湾之塔」、日台友好強める
元航空隊員らが台北で記者会見、正しい歴史観浸透に期待
先の大戦における台湾出身の犠牲者を顕彰・慰霊する「台湾の塔」の基礎部分が沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園内に完成したことを受け、塔の土地を提供した沖縄翼友会(玉那覇徹次会長)の会員など塔関係者が9月末、台北を訪問し、現地で記者会見を開いた。台湾の政府関係者らは塔建立の趣旨に賛同、共感の輪が広がっている。(那覇支局・豊田 剛)
蔡政権幹部らも歓迎、民間や学者が相互協力し関係強固に
第2次世界大戦には約8万人の軍人・軍属を含め約20万人の台湾人が徴用され、約3万3千人が犠牲になり、約2万人が行方不明になったとされる。
記者会見で台湾メディアの注目を浴びたのは、翼友会の事務局長で先の大戦では海軍の航空隊員として参戦した濱松昭氏(89)と崎濱秀光氏(87)だ。先の大戦で航空戦に携わった元兵士で構成される翼友会は高齢化が進み、現在は5人程度しか会員がいない。
崎濱氏は、土地提供をした理由として、「戦後、日本政府は台湾に何かしなければならないと思っていたが、これまで何もやってきていない。韓国人と同じように戦後補償がないのが気になった」と述べた。さらに、「戦争が終わり日本人が台湾から引き揚げる時に大和魂を忘れてしまったが、台湾の元兵士には脈々と受け継がれていることをうれしく思う」と述べた。
濱松氏は、「多くの台湾人は大東亜戦争で航空隊に志願し、亡くなった人が多いが、誰が亡くなったかも分かっていない」と述べ、台湾出身の航空隊戦没者の84人の名簿を紹介した。その上で、「塔の土地を提供することで、少しでも台湾の人々の心に報いることができればうれしい」と話した。
翼友会の両氏に加え、記者会見には中山成彬元国交相、「台湾の塔」建立期成会に当たる日台平和基金会の當山正範理事、廣瀬勝理事、台湾側からは台湾教授協会の許文堂教授、高雄市関懐台籍老兵(退役軍人)文化協会の呉祝榮理事長が出席した。
中山氏は、「第2次世界大戦では、欧米によるアジアの植民地支配を救おうと日本が立ち上がって韓国や台湾から多くが参戦したことは日本でもあまり知られていない」と述べ、台湾の塔ができたことによって、正しい歴史観が日本に広まることに期待を示した。
廣瀬氏は、「日本の統治下にあった台湾の戦没者の慰霊碑がないのは英霊に対して失礼。政府の不作為を感じる」と指摘した。
呉氏は、「台湾南部の原住民らが命を懸けて戦ったことを認知してほしい」と訴え、外国の公用地で慰霊碑ができたことの意義は大きいと強調した。また、「これまでの台湾政府には英霊に対する敬意を感じられない」と中国に対して配慮し過ぎる姿勢を痛烈に批判した。
沖縄の一行らは蔡英文総統の最大の支持団体「小英之会(蔡英文友の会)」(顔志發会長)が主催した歓迎晩餐(ばんさん)会に出席した。
民進党の洪耀福事務局長は、「蔡英文総統の父親は戦時中、満州に派遣された」と述べた上で、翼友会のメンバーら沖縄からの訪問者に歓迎の意を示した。日台関係について、「総統は最重要視している」とし、民間や学者がお互いに協力して関係をさらに強固なものにしたいと述べた。
中山氏は、「日本は戦争に負けて台湾に迷惑を掛けた」と述べ、「今後は少しでも台湾のために役に立つ日本でありたい」と謝辞を述べた。
一行はさらに、民進党の重鎮の政治家、実業家や学者らに次々と温かく迎えられた。概して沖縄と台湾の相似性や心情的な距離の近さを感じている様子だった。
民進党の呂秀蓮元副総統は、中国の脅威を念頭に、「戦争では小さい国が仕掛けて負けることが多かったが、今後は台湾、沖縄共に戦争をしなくて済むように努力したい」と述べた。その上で、台湾が目指すべきはスイスと同様な永世中立国だと訴えた。
また、民進党の姚嘉文元主席は、「沖縄は台湾と同じように交易で発展し、強い関心を持っている」と述べた。台湾の塔については「日台関係をより密接にするもの」との認識を示し、来年6月23日の「慰霊の日」には公私を問わず沖縄を訪問したい意向を示した。
今回の台湾訪問について中山氏は、「戦前からの本省人(台湾人)には親日家が多く、父親から日本統治時代の話を聞いて育った子供たちも親日派になっていると実感した」と振り返った。蔡英文政権には日本重視の姿勢を感じ、「中国からの圧力に屈しないでほしい」と締めくくった。