沖縄人は「先住民族」なのか
異種族混交の原日本人
歴史・文化・言語から探求
今年の4月20日と21日の沖縄タイムスに、島袋純琉大教授が「人権侵害に基づく辺野古問題」と題して、「国際法で考える」という論考を発表していた。
その冒頭で、「国連や国際機関においては、(中略)真摯(しんし)な議論を経て、沖縄の人々を『先住民族』であるとする共通認識がすでに確立している」と述べているのだ。
率直に言って、その共通認識は仲間内での認識ではないのか。
去年の9月下旬に、沖縄の翁長知事がジュネーブの国連人権理事会で、「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」と演説して、強い反発意見などが出て話題になったが、そのときの報告の中で、国際NGOが「沖縄県民は先住民」である、と一部の有志が国連に訴え続けていたこと、また日本政府に再三に渡って国連勧告を出していたことなどが判明した。
島袋純教授の「共通認識」というのはそのときの経緯を含めて指摘したのであろう。しかし、これまで沖縄県民には国連の「先住民」問題は知らされてなかった。
日本政府はそうした国連勧告に対し、4月27日に衆院内閣委で外務省の飯島俊郎参事官が「日本にアイヌ民族以外に少数民族は存在せず」と発言、沖縄の人々を先住民族とする国連人種差別撤廃委員会などの見解について木原誠二外務副大臣が、「事実上の撤回や修正を行うよう働きかけたい」と答弁した。それは日本政府のこれまでの「沖縄県民は日本人である」という見解の裏付けであった。
そうした日本政府の態度や一般の評価する声に対し、先の島袋教授の揺さぶりをかけた論文(上・下)の中には、驚くなかれ十数回も「先住民族」という語句を使用して、繰り返し国際法と照合して解説している。例えば、「機能する定義」、「自由権規約」、「国際人権法」とか、「権利宣言」といった専門的な難しい表現で列挙されていた。
しかし、キーポイントの「先住民族」の要因の背景などについては、なぜかほとんど触れられてない。沖縄を「先住民族」とするからには、その言語や文化、歴史などを検討し証明しなければならないはずだ。
琉球・沖縄民族の歴史的内実について繙(ひもと)くとき、まずその歴史観に突き当たる。この問題で配慮しなければならないことは、琉球王朝史観に限定した考えではなく、一般住民の実態を踏まえた民俗や文化を考慮して、探求しなければならないだろう。
例えば、源為朝の渡来説に結びつけた舜天王の出自伝説などよりも以前、12世紀から歴史を遡って考えてみる必要がある。
古代の歴史は考古学的にも民俗学的にもいまだ曖昧にしか捉えられていない。部落時代は、心の拠り所として神・太陽を信迎し祭祀儀礼が中心だった。オモロ(琉球の古謡)から推測するにしても、13世紀の英祖王を謡ったオモロが一番古いといわれている。その後、按司時代(グスク時代)に至って、武力支配により群雄割拠して、グスクは築城・造船・貿易の時代への拠点でもある。グスクについては戦後の「グスク論争」があった。グスクに対しては、「拝所」「居城」「集落」「共同体的な聖域」「按司家族の屋敷」等々の諸説が出た。その上で、各諸島も含めて、多数のグスクの遺跡・遺物から推察するに、13世紀頃から規模は小さくとも内外に向けて活気があったようだ。
孤島ゆえの閉鎖性とは逆に、ときには開放的交流もあったことが頷ける。それを裏付けるように地理的条件による人種の劇的な出入りがあった。九州からの人の流れ、朝鮮・支那・ベトナム・タイ等々との交流の空間的広がりもあった。ただ移住による人種的な輸入を伴って沖縄人を総合的に、推し量ると、DNA鑑定でも結論が出ているというし、やはり人々は原日本人と言える。決して単独の「先住民族」とは断定できない。
とは言うものの沖縄県民でも人間観察からすると、動揺させるような要素がないとは言えない。例えば、沖縄語(ウチナーグチ)の異質性を大方言というべきか、それと日本各地の方言とはかなり異なるし(しかも各地域や島々でも通じないほどの違いがある)、また顔立ちがヤマト系(日本風)か朝鮮系を思わせる人々も少数ながらいるし、概して顔立ちには特徴があって、彫りが深く、体毛に恵まれている。その毛深さや針突(ハジチ)(入れ墨)をする風習など、昔の沖縄住民の特徴だったし、先住民族のアイヌに似ている。しかも歴史的には、「琉球王国」という実在が精神的に矜持となる。数百年間の王朝時代は、多角的に見て独立国ではあっても先住民族には該当しないのだ。しかし、沖縄人が数百年間、日本国民でなかったことも確かなことである。ここから屈折した異邦人的な発想が生じてくる。
にも拘らず、明治初期から昭和末期に至るまで、内外の諸学者によって研究し、継承発展させた内容はもはや定説に近い。まだ、確定的ではないものの沖縄人の祖先に関しては言語学、体質、風習などを総合すれば、現在の日本本土人と同一民族系に属すると言えよう。現今の沖縄人は有史後、諸種民族の混交によって成立している。例えば支那人の三六姓や朝鮮人の帰化があり、それ以前に九州から移動してきた民族が定着し、異種民族の混血が同化し、今日の沖縄人を形成していると思われるのである。
(ほし・まさひこ)