「辺野古報告書」全文公開を

西田 健次郎OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

不透明な第三者委員会

密室の翁長県政に不満募る

 案の定、というべきか、当初から予測したとおり、翁長(おなが)沖縄県知事の「私的」諮問機関である「第三者委員会」(委員長・大城浩弁護士や環境専門家ら6名で構成)は、前県政が承認した辺野古崎の一部海域埋め立てに対して、「法的に瑕疵(かし)がある」とした報告書を知事に提出した(7月16日)。

 委員会の出した結論は、普天間飛行場の辺野古移設に関する県行政の継続性を否定することにほかならず、県政内部に亀裂と不信をもたらすと予想される。

 また、委員会をはじめ、翁長県知事が報告書の全容を公開・開示しなかったため、強引な行政手法への疑問や報告書そのものに対する透明感が県民や、県庁内部に広まる結果につながった。

 同委員会は今年1月の発足以来、計12回会合を開いたものの、県民に一度も公開されたことがなく、全ての会合を非公開で押し通してきた。会合の密室性、不透明性について筆者はきびしく指摘しており、「結論ありき」のシナリオを導いた同委員会の公平・公正・中立性に改めて大きな懸念が生じている。

 マスコミ報道や、県の関係者などによると、危険な普天間飛行場の移設先である辺野古の埋め立てについて第三者委員会は、そもそも辺野古埋め立ての必要性自体に「法的に瑕疵あり」と結論づけていることから、環境保全策、国土利用の合理性、国益、県益等その他の案件はすべて「瑕疵ありき」で片づけられる運命にあったといえようか。

 「前県政が1年以上の時間をかけ、土木建築部など各部局が総力を挙げて数百項目を繰り返し精査した承認審査は無意味だったのか」(県庁関係者)と関係当局には徒労感も漂う。

 報告書提出の当日、報道によれば知事は「内容を精査する。事実関係を検証してから議事録をふくめ全部公開する」と全容開示を拒んだ。これに対して地元マスコミもさすがに「県民最大の関心事」と報告書全文の公開を求めた。だが、翁長知事に押し切られ、肝心の第三者委員会の説明は一切なかった。

 報告書は資料を入れてA4サイズ600ページ以上の文量。当日、知事サイドが50名以上の報道陣に配った「概要」はA4サイズ2枚だけ。

 マスコミも軽く見られたものだ。

 しかも質問に対する説明は翁長知事のみという有様である。県民の税金を使って運営された独立性のある委員会が半年かけてまとめた結論=報告書だ。内容次第では日米安全保障を軸とした日米同盟をも揺るがしかねないもの。それだけの重みがあろう。だから、県民だけでなく、内外が重大関心をもつだけの理由がある。

 県関係者によれば、2枚の「概要」だけでは「法的瑕疵」に至った核心部分の根拠をどこに求めたのか判然としない――と指摘される。

 実際に検証作業に携わった委員会のメンバーがマスコミの質問にきちんと答え、委員会でのやりとりや経過など正確で、責任ある説明をするのが民主的で健全な対応ではないか。最低限、委員会の責務といえる。報告後、大城委員長はひとことも質問に答えず、逃げるように現場を去ったらしい。無責任極まる。

 報告書を受け取ったばかりの知事が自分の都合だけ話してお茶を濁すのは筋違いも甚だしい。こちらも厚かましく、無責任。こういうのを本当の「茶番劇」というのかもしれない。

 埋め立て承認審査に関わったとして、委員会に事情を聞かれた県庁関係者は多数いるという。「公平・中立と知事が強調する公的な委員会がすぐに全容を公開しないのは疑問だ」「会合はすべて密室で開かれ、やりとりの要旨すら公表されていない」(沖縄タイムス)と地元マスコミは県職員の不満を取り上げ、いつになく批判記事を一部掲載した。職員の不満が鬱積した翁長県政の遅滞と混乱が危惧される。

 同じタイムスの紙面では、自民県連の具志孝助幹事長が「前知事の承認は十分な時間をかけており、瑕疵があったとは考えづらい。検証の中身を公表しなければ瑕疵の結論ありきで作業を進めたとの批判は免れない」と全容開示拒否に疑問を投げる。

 報告書の全文公開について琉球新報は、ベタ記事扱いながらも県内部の声として「委員会の報告書は公開される性質の文書のはずだ。全文を(すぐに)公開しないのは透明性を疑われかねない」(県幹部)とやはり、県職員の不信感を述べている。

 「辺野古新基地反対」の論調で、「県政応援団」の一翼を担った地元マスコミだが、端から冷静かつ客観的にみると、今回の「辺野古報告書」公開問題では翁長知事に軽くあしらわれた感が強い。どちらにせよ、「県民の知る権利」をもっと大切にしてもらいたい。

 「公開しない理由」をたびたび聞く記者(女性)に対して、翁長知事は「私は県民を代表する知事ですよ(なぜ信用しないか)」と高飛車に言い放ったそうである。マスコミ関係者によれば、知事は答えに詰まると、声を荒げて記者を恫喝(どうかつ)したりする場面があるようだ。

(にしだ・けんじろう)