翁長知事の「朝貢外交」 中国の沖縄工作に手を貸す

《 沖 縄 時 評 》

◆安倍首相より李克強首相

翁長知事の「朝貢外交」 中国の沖縄工作に手を貸す

翁長雄志沖縄県知事らの中国訪問を報じる琉球新報4月15日付

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する翁長雄志沖縄県知事は4月17日、知事就任後初めて安倍晋三首相と会談したが、地元紙は「新基地絶対作らせない」(琉球新報)「知事決然 正面突破」(沖縄タイムス)との勇ましい見出しで報じ、翁長知事が沖縄に戻ると、まるで凱旋(がいせん)将軍のように称えた。

 この安倍首相との会談直前に、翁長知事は日本国際貿易促進協会の訪中団に加わり、河野洋平元衆院議長らと北京を訪問。同14日には人民大会堂で、中国側の配慮で会談相手としては「格上げ」(朝日)の李克強首相との会談に同席した。

 その席で翁長知事は、李首相に対して中国福建省と沖縄県との間の定期航空便開設を要請。アジアとの交流で栄えた琉球王国の歴史に触れ「アジアの発展が著しい中、沖縄が注目されてきていることを、ぜひご認識いただきたい」と述べた(共同通信)。

 いったい沖縄の何に注目してもらいたかったのか。観光なのか、それとも直後の安倍首相との会談での辺野古移転反対の「強硬姿勢」も念頭にあったのか。いずれにしても自国の首相と会う前に中国の首相と会談し定期便開設を哀願する姿は、何とも異様だった。

 折しも週刊文春(4月23日号)は中国が「琉球独立工作」を周到に進めている実態を特集したが、翁長知事の言動はその工作の進捗(しんちょく)を感じさせて余りある。

◆定期便で中国誘致

 なにせ翁長氏は親中派として知られる。那覇市長時代(2000~14年)には、友好都市の福州市(福建省都)との交流を活発化させ、11年秋には自ら団長となって“使節団”(那覇市・福州市友好の翼)を率いて福州市を訪れ、共産党幹部らから歓待を受けた。

 こうした姿勢が評価され、05年には「福州名誉市民」にもなった。それに気をよくしてか、翁長氏は那覇・福州友好都市交流シンボルづくり事業として総事業費2億6700万円を投入して「龍柱」の建設を計画。なんとその費用の8割を国からの一括交付金で賄った(現在、工事中断=本紙4月22日付参照)。

 龍柱とは、龍を彫った石柱のことで、横浜の中華街にあるように中国のシンボルと見なされている。

 計画によれば、それを大型観光船が入港する那覇の表玄関、若狭地区の幹線道路の両脇に2本そびえさせる(高さ15㍍)。観光客は龍柱の間を通り抜け、すぐ近くにある孔子廟や福州園(中国式庭園)を経て首里城に至る趣向だ。

 また、翁長氏は那覇市の都市計画マスタープランの中で、若狭地区に隣接する久米地区を「福州園や天妃(てんび)宮などを核とし歴史性を活かしたクニンダ(久米人)のまちづくり」と位置付け、中華街を作ろうとした。その手始めが龍柱にほかならなかった。

 久米人とは14世紀半ば、明から琉球王国に派遣された職能集団の末裔(まつえい)のことで、久米三十六姓とも呼ばれた。その人々が住んでいたのが久米地区だ。

 中国側の期待も尋常ではない。昨年、翁長氏が知事選で当選すると、中国の一部メディアは「福州名誉市民が沖縄知事に」などと歓喜した。そして安倍首相との会談を待たずに訪中。中国の首相に定期航空便の開設を願い出た。どう見ても朝貢の図ではないか。

 案の定、中国は恩寵(おんちょう)を下すかのように、那覇―福州の定期便の就航を認める方針を示し、中国東方航空が6月に新規開設する方向で最終調整に入っている(琉球新報4月25日付)。

 同紙によると、水曜日と土曜日の週2往復運航を予定。同社沖縄支店は「那覇市と福州市は姉妹都市を結んでおり、これまで沖縄と福建省の関係が非常に密接だ。県内に福建省出身の中国人も多く住んでいるため、那覇―福州線は非常に発展することが見込まれる」と話している。定期便の就航で中国人が沖縄に殺到するという算段だ。

 法務省の統計では沖縄に2000人近い中国人が在留している。11年7月に中国人観光客に数次ビザ(査証)が発行され、近年は円安もあって来沖中国人が増加。確かに中国人観光客が沖縄に押し寄せれば、観光収入は増えるだろう。

◆沖縄に領事館狙う

 だが、そこには“落とし穴”が待ち構えている。中国人に数次ビザを発行した際、西原正・平和安全保障研究所理事長(元防衛大学校校長)は、沖縄に中国人客が増えれば、それ目当てに、中国人富豪が土地やホテルの買収を進め、自国政府の情報収集に協力して、軍事基地近くの土地を買収したり、観光客に紛らせて情報工作員を沖縄に潜入させたりする、と警鐘を鳴らした(産経新聞『正論』11年6月30日付)。

 その危険性は那覇-福州の定期便就航で一層、現実味を帯びる。少なくとも中国は観光客増加を口実に領事館の設置を求めてくるに違いない。

 09年1月に日本が中国の青島に総領事館を開設した際、中国は沖縄に領事館設置を要求。これを外務省は断り、代わりに新潟に開設を認めた経緯がある。

 その新潟では、中国領事館は当初、ビルの一角を借りて設置されたが、10年に同市中央区西大畑町の大型邸宅に移転。総領事は中華街構想を新潟県に示し、同市中心街にある万代小学校跡地の買収に乗り出した。このため市民が反対運動を起こし買収は頓挫した。

 だが、11年12月に民間不動産会社から新潟市中央区の県庁から500㍍ほど西にある県公社総合ビル裏手の更地1万5384平方㍍の広大な土地を取得。総領事館移転に加え、総領事公邸、館員宿舎、市民との交流施設、駐車場整備などを計画。中華街構想も諦めていない。

 沖縄に領事館が設置されれば、同様の事態が生じるのは目に見えている。狙われるのは久米地区だ。すでに中国人による土地買収が進んでいるとの話もある。

 領事館は中国の対外工作の拠点だ。治外法権で中国の領土となり、ここを足場に諜報スパイ活動を行う。ラオスでは09年に大規模な土地を取得して5万人の中華街を作り、ラオスを親中化。アフリカのスーダンでは20万人規模の大中華街を作ってスーダンの属国化を図ろうとしている。こうした手法は当然、日本にも使われる。

 想起すべきは、中国が10年7月に施行した国防動員法だ。同法は中国国外に住む中国人にも国防義務を課し、中国の尖兵になるよう義務付けている。北京五輪の聖火リレーで中国人が動員され、チベット虐殺に抗議する人々に暴力を振るったが、それも本国からの指令で、領事館はそうした工作拠点に使われるのだ。

◆尖閣侵犯に触れず

 翁長知事は4月に沖縄を訪ねた菅義偉内閣官房長官に対して「私は日米安保条約に理解を示している」と述べたが、はたしてそうだろうか。

 中国は海洋を「青い国土」と称し、経済発展を背景に軍事力を強化し「核心的利益」を海洋にまで押し出し、尖閣諸島への領海侵犯を繰り返している。13年秋には東シナ海に「防空識別圏」を設定し、中国軍機の進出も際立っている。

 南シナ海では14年初めに海版「識別圏」を設け、「九段線」(南シナ海全域を領土とする9本の線)の実効支配に動いている。パラセル(西沙)諸島ではベトナムの経済水域圏で海底油田の開発を強行し、中国船はベトナム船舶との衝突を繰り返している。

 スプラトリー(南沙)諸島ではフィリピン漁船を拿捕(だほ)し、ヘリポートや港などを建設し軍事基地化を進め「砂の長城」を築き、力による実効支配を強めている。その矛先は東シナ海、沖縄諸島にも向かってくるのは必至だ。

 そうした安保環境の変化を翁長知事が認識しているとは到底思えない。知事に就任以来、中国の野心や軍事的脅威に対する発言は皆無に等しいからだ。李克強首相との会談でも沖縄県の管轄下にある尖閣諸島への中国船侵犯について一切触れなかった。これでは侵犯を容認するとの間違ったメッセージになりかねない。

 中国人観光客の増加といった経済だけの利を求める翁長知事の「朝貢外交」は危険このうえない。

(増 記代司)