同性婚拒否で米女性書記官が収監

非難するオバマ政権も“同罪”

「法の支配」を無視した過去

 米ケンタッキー州で今月3日、女性の郡書記官が信仰を理由に同性カップルへの結婚証明書発行を拒み続けたために収監された。オバマ政権は「法の支配」を無視した書記官を非難したが、同政権には結婚を男女間の法的結合と定義した「結婚防衛法」を擁護する責任を一方的に放棄した過去がある。(ワシントン・早川俊行)

400

同性カップルへの結婚証明書発行を拒み続け、収監された米ケンタッキー州ロワン郡のキム・デービス書記官(同州カーター郡拘置所提供)

 6月の連邦最高裁判決で同性婚が全米で合法化されたものの、同性カップルへの結婚証明書発行を拒み続けたことで収監されたのは、同州ロワン郡のキム・デービス書記官(49)。敬虔(けいけん)なキリスト教徒のデービス氏は、「神の結婚の定義と異なる結婚証明書を私の名前で発行することは良心に反する」と主張し、裁判所から発行を命じられた後も、「神の権限で」発行を拒否していた。

 連邦地裁のデービッド・バニング判事は、デービス氏を法廷侮辱で収監した理由を、「法廷の権限より自然法が優先されるとの考えは危険な前例となる」と説明。ホワイトハウスのアーネスト大統領報道官も「民主主義の成功は法の支配に懸かっており、法の支配を超えた公職者はいない」と述べ、公職者は法を順守する義務があると主張した。

 これに対し、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は4日付社説で、「デービス氏の一件はあからさまなダブルスタンダードを浮き彫りにした」と指摘し、同性婚をめぐり、オバマ政権やサンフランシスコ市が法の支配を無視した過去を批判した。

 結婚防衛法は1996年に上下両院が圧倒的賛成多数で可決し、クリントン大統領(当時)が署名して成立したものだったが、2011年にオバマ政権のエリック・ホルダー司法長官(同)が同法を違憲と断定。民主的手続きを経て成立した法律を、政府が勝手に違憲と解釈し、裁判で擁護する責任を一方的に放棄したのだった。

 結婚防衛法は結局、13年に連邦最高裁によって違憲判決が下される。これを境に、各地の連邦地裁・高裁が次々に同性婚を禁じた各州の法律に違憲判断を下すようになり、今年6月の最高裁判決につながった。その意味で、オバマ政権は法の支配を無視し、同性婚全米合法化の流れをつくることに加担したのである。

 一方、ギャビン・ニューサム前サンフランシスコ市長(現カリフォルニア州副知事)は04年、同性婚を禁じた州法を無視して同性カップルに結婚証明書を発行した。

 これ以外にも、カリフォルニア州など複数の州司法長官が裁判で同性婚を禁じた法律を擁護する責任を放棄したほか、デービス氏とは正反対に、同性婚を禁じた州法を無視して同性カップルに結婚証明書を発行した書記官もいた。

 同紙は「法より個人的な好みを優先した点で、ホルダー、ニューサム両氏らもデービス氏と同罪だ」と断じた。だが、同性婚に反対するデービス氏は収監という厳しい処罰を受ける一方、同性婚賛成の立場で法を無視した者たちは逆に「もてはやされている」(同紙)のが現実だ。

 米国では近年、同性婚や同性愛に反対するキリスト教徒が社会的制裁を受ける事例が相次いでいる。保守派は法の支配を尊重する観点から、デービス氏の行為を全面的に支持しているわけではないが、「信教の自由を行使したことで人が収監されるのはばかげている」(共和党大統領候補のランド・ポール上院議員)と、信仰を持つ人々が一方的に断罪される状況に強く反発している。

 デービス氏の収監を受け、ロワン郡では4日から同性カップルへの結婚証明書発行が開始された。