「本に触れる喜び」を全国の子供に知ってもらう
おはなし会や人形劇を行う公益財団法人ふきのとう文庫
幼児や心身に障害を持つ子供たちに「本に触れる喜び」を知ってもらおうと長年、活動している団体がある。札幌市に拠点を持つ公益財団法人ふきのとう文庫(高倉嗣昌代表理事)がそれ。定期的なおはなし会や人形劇などの他に、布の絵本や拡大写本を貸し出すことで全国の子供たちを対象に「本に親しみ健やかに育つ」実践活動を展開している。(札幌支局・湯朝 肇)
「布の絵本」制作と貸し出し、視覚障害者には拡大写本を
障害者や子供が活動できるオンリーワンの図書館を目指す
「10匹の子ブタの兄弟、そのうちの一匹ガースはオオカミのウルフに食べられてしまうのでしょうか」-こう子供たちに語り掛けるのは、『オオカミと10ぴきの子ブタ』の絵本の読み聞かせで、合間ごとに子供たちに話し掛ける足立芳江さん。長年、ふきのとう文庫子ども図書館で定期的にボランティアとして子供たちに絵本の読み聞かせを行っている。
7月21日には、乳幼児を対象に「なつのおはなし会」を受け持った。この日の参加者は少ないと足立さんはいうが、それでも保護者も一緒になってゲームや遊戯を行った後、読み聞かせを行った。全部で4冊の絵本を読み、『オオカミと10ぴきの子ブタ』はその一冊。
ベビーシッターに化けたオオカミが子ブタの兄弟を食べてしまいそうな状況に陥るが、兄弟たちの勇気でオオカミをやっつけるという話。絵本を見詰める子供たちの表情も真剣そのもの、食い入るように体を乗り出して聴いている。
子ども図書館では、子供のための催しとして1年を通して毎週日曜日にイベントを持っている。おはなし会以外に「うたう会」や「世界の楽器展」「チェロ演奏会」など多岐にわたる。「小さい頃から絵本や歌、楽器に触れることは子供の心育てにはとても重要なこと」と足立さんは語る。
ところで、ふきのとう文庫の事業の一つに「布の絵本」の制作と貸し出しがある。絵本というものの文字はない。一枚の布にボタン、マジックテープ、さらにはスナップやファスナー、紐(ひも)などを巧みに使って動物、乗り物、お花などの造形物が付いている。工夫を凝らした布の絵本は、何よりも感触が柔らか。ボタンやパーツを外したり、ファスナーを動かしたり自由自在だ。
子供たちが手を動かしているうちに次第に自分なりの絵本の世界に入っていくという感じだ。館長でもある高倉嗣昌さんは布の絵本について「もともとは当文庫の創設者である小林静江さん(故人)が40年以上も前に障害のある子供たちのために制作したのが最初です。今では障害のある子もそうではない子供も布の絵本を楽しんでいます」と語る。現在、布の絵本はここでは約50人のボランティアで作られている。
そして、もう一つ重要な事業に拡大写本がある。視覚障害者にとって既存の本を読むのは字が小さ過ぎて読みにくいという難点がある。そこで読みやすいように既刊の本の字を大きくして作り直し、読みやすい本にするのが拡大写本である。もちろん、単純に文字を拡大したものではなく、拡大した文字は横書きにする。
また、文字に合わせてレイアウトも変える。イラストがあれば、その部分も拡大して描き直していく。「一つ一つ手作りなので完成するまでかなりの時間がかかりますが、できた時の子供たちの笑顔がうれしい」とスタッフの一人は語る。現在、ふきのとう文庫にはおよそ2万冊の蔵書があるが、このうち布の絵本は700点。拡大写本は400点を超える。
とにかく布の絵本にしても拡大写本にしても根気のいる仕事である。「普通、図書館というと静かな場所を連想しますが、ここはとても賑(にぎ)やか。障害者や子供たちが自由に活動できて、本を通してさまざまな世界を知ることのできる図書館です」と高倉館長は笑顔で語るが、これからも世界でオンリーワンの図書館を目指すという。