日韓両国民は客観的な視点を /元駐韓大使 武藤正敏氏
元駐韓大使 武藤正敏氏(下)
朴槿恵前政権でも日韓関係が悪い時期はあったが、「慰安婦合意」など方針転換した。文在寅大統領が前政権のように変わる可能性はあるのか。
朴槿恵前大統領は国益を考えていた。自分が大統領でいる間は安倍政権が続くので、慰安婦の問題を解決しようと思ったら、安倍晋三首相と話をつける以外ないと考えて、ガラッと変わった。朴槿恵氏は本質的に反日ではないし、日本人の知人も多い。そこが文大統領と違うところだ。
文大統領は今年の年頭記者会見で「日本政府がもう少し謙虚になるべき」と言ったが、謙虚になれということは、自分の言うことを聞けということ。こういう認識であれば、両国関係はうまくいかない。
今の政権では日韓関係の改善は難しいということか。
われわれ外交をやっている人間は、日韓関係が大事だから、徹底的に悪くならないようにしなければという意識が強かった。そのため、これまで日本側は相当、譲歩してきた。だが、(新著の)『文在寅という災厄』(悟空出版)でも書いたが、文大統領が現実無視、国益無視、二枚舌である限り、改善は難しいだろう。
首脳同士が対話すべきだという人がいるが、今の韓国政府と対話しても何も進展はない。外交は相手を見ながらする必要があるため、こういう時は動かないで、次の政権で関係改善しようと考えざるを得ないのではないか。
日本は半導体材料の輸出管理強化や「ホワイト国」からの除外を決めた。この対応についてどう考えるか。
徴用工に対する報復としての輸出禁止は良くないが、今回は安全保障の問題であり、徴用工に対する報復ではない。完全輸出禁止でもない。韓国が(安保問題として)しっかり対応してくれればいいだけの話だが、徴用工に対する報復だと言って、まともに対応する様子がない。
日本に対する報復措置もあまりできることはないし、世界貿易機関(WTO)で主張したり、米国に助けを求めるくらいしかできないだろう。自分たちが譲れないから、非常に困っているのではないか。文政権は日韓関係だけでなく、経済でも北朝鮮との関係でも、すべて袋小路に陥っている。
若い韓国人は日本の文化が好きだが、なぜ反日活動に参加するのか。
歴史問題は分けて考えているからだ。日本は嫌いでないけれど、歴史問題の扱いに対しては反発している。
それと、今の韓国内には大本営発表しかないため、日本人がここまで怒っていると国民たちは分かっていないのではないか。(保守系で文政権を批判している)朝鮮日報と中央日報に対する不買運動も起こっているくらいだ。
若い人たちは経済の悪化で政権に反発しているが、反日の動きに対しては同調している。割と純真な気持ちで同調しているのではないか。
日本製品不買運動も、現政権が何をやろうとしているかを国民が知らないから起きている。客観的事実を韓国人が理解すれば、日本に対する見方が変わるだろう。
今は日本にしろ韓国にしろ、互いの世論が盛り上がり過ぎて現実が見えていない状態だ。文大統領のやっていることはひどいが、韓国自体はそれほどひどくないという事実を、日本人も客観的に眺めた方がいい。文政権と一般の韓国人を分けて考える必要がある。
(聞き手=岩城喜之)